ある休みの日の午前の話。3
さらに続きだね。
夜羽が高嶺の家に遊びに行きたいというから連れて来たんだが、
「シュン、こういう時の遊ぶって何?」
と聞かれてしまった。
……逆に問いたい。何がしたくて来たんだ。
結局、他愛も無い世間話をして過ごした。
「それじゃ、もう昼時なんで帰りますね?」
「ん、帰ります」
玄関先で高嶺と彼女のお母さんに告げる。
「一緒に食べていったらいいのに」
「そうですよ!」
二人してそう言ってくれた事をうれしく思ったが、さすがに朝早くから訪れて、その上食事までありつくなんて図々しい事は、出来そうに無い。
「いえ、そこまで迷惑をかけるわけにはいかないので。じゃ、高嶺もまた」
「ん、ホタルまた」
そう言って、俺と夜羽はドアを開け――ようとした。
「ちょっと待って」
だが、何故か高嶺のお母さんに腕を掴まれ、とめられた。
高嶺も驚いた表情をしていた。
「えっと……何か……?」「お母さん!? 何してんの!?」
二人で声を揃えて質問をすると、高嶺のお母さんはニコッと笑った。
ちなみに夜羽はこの光景をポカンと見ていた。
「いえ、別に大したことじゃないの。ちょっと気になって」
「はあ、何がですか?」
「高嶺、だと私もそうなのよね。だからそう呼ぶとわかりづらいから、この子の事、名前で呼んであげてくれないかしら?」
「はい!? いや、それは……」
何の前触れも無い、突然すぎる提案だった。
というか、前に高嶺自身にも同じようなことを言われた気がする。
……やはり親子……。
「いいじゃないの。神尾君……だったわよね? 名前を呼ぶくらい減るもんじゃないし、この子も呼んでほしがってるし」
「お、おおおお母さん!?」
高嶺が顔を真っ赤にさせていた。
「ほら見なさい。この子も否定して無いわ。とにかく、紛らわしいから名前で呼んじゃいなさい」
高嶺母のその言葉に、高嶺自身も若干期待を込めたような目をこちらに向けてきた。
んー……別に呼びたくないとかそういうんじゃないけど、正直恥ずかしいんだが……。
「はあ…………じゃあ、この家に遊びに来たときだけ」
その答えに高嶺母は納得いかないような表情を浮かべたが、
「……ま、いいわ、とりあえずそれで。慣れてきたら、普通に呼んであげてね? そのほうが喜ぶから」
と、渋々といった様子でそう告げた。
その間、高嶺は真っ赤な顔で自分の母にボソボソと何かを言っていた。
何を言っているかは聞き取れなかったが、言われた本人が完全に無視しているので、文句か何かなんだろう。
「じゃ改めて、お邪魔しました。またな……蛍」
「は、はひっ! まままたいらしてください!」
後ろで高嶺母がクスクス笑いながら自分の娘を見ていた。
この人は一体何がしたいんだろうか。
「……おじゃましました。……ホタル、また」
「あ! う、うん、夜羽ちゃんもまた来てね?」
慌てて夜羽にも挨拶をする高嶺。
「む……ホタルはワタシのことを忘れてた」
「えぇ!? そそそんなこと……ない、よ」
そんなしどろもどろになったらいくらなんでもバレるぞ
「むー……」
ほら。
……仕方ない。
「夜羽。行くぞー」
「…………ん」
高嶺に対する多少の助け舟のつもりで、夜羽に声をかけ、高嶺家を後にする。
「それじゃ、必ずまたいらっしゃいね? 夜羽ちゃん。……それにもちろん、神尾君も、ね?」
ドアを閉める直前、そんな声が耳に届いた。
「……夜羽、今度遊びに行くときは、一人で行ったり、しないか?」
「ん……? 何で?」
「………………いや?」
ふ、深い意味は無いぞ……?