ある休みの日の午前の話。
休日になった。
いつもだったら面倒なので昼過ぎまでは絶対に起きないのだが、
ボスンッ!
「グハッ!!」
いつも通り少しでも寝坊すると与えられる衝撃で目を覚ます。
「…………お、はよう、ございます。夜羽さん」
「ん、おはよう。起きた?」
「はい、起きました……しかし何度も申し上げています通り、ボディプレスはやめていただけないでしょうか……?」
寝起きの一発を食らった俺は、弱弱しく抗議の声を上げる。
「や」
が、拒否された。
「……そですか」
「で? 今日は学校が休みだが、どうする?」
朝食をとりながら何気なく夜羽に尋ねた。
「む、どうすると言われてもよくわからない」
「まあ、そうか。じゃ、昼まで家でごろごろして、昼飯食べたら矢島さんの所でも行くか?」
ちゃっかり午前中は休んでいたいと希望を言いながら、提案した。
「ん、ごろごろはしないけど、昼からイチロウの所には行く」
が、午前中の案は、残念ながら許可を得られなかった。
「ふぅ、じゃあ今からどうするつもりだ?」
「ん、散歩に行こう」
「またか、好きだなぁ散歩」
苦笑いを浮かべながら呟いた。
「少し行きたい場所もある」
「?」
夜羽の言葉に疑問を持ちながらも、準備を整え散歩を開始する。
もちろん俺も一緒にである。
俺も夜羽も、片方だけが出掛けるという考えは微塵も浮かんでいなかった。
「どこに行くつもりなんだ?」
夜羽がなにやらウロウロと、紙を見ながら歩いていたので、住所が書いてあるのだろうと想像した。
だが、夜羽は住所が読めるのだろうか?
「ここに行きたい」
と差し出されたのは、やはり住所と電話番号、そしてメールアドレスが書いた紙だった。
「これは?」
「前にホタルがくれたの。遊びに来てって」
なるほど、これは高嶺……さんのものだったか。
確かにメールアドレスには、HOTARUの文字が入っていた。
「そうか……でも夜羽どうやって行くか、これ見てもわかんないだろ」
「む、そんなこと無い。昔、空の上からシンゴウに似たようなのが書いてあるのを見たことある」
当然というべきか、やっぱりわかっていなかった。
「うん、似たような、だろ? 同じじゃないと思うんだ、それ」
「む、でも」
まだ反論しようとする夜羽の声を遮り、告げた。
「とりあえず反対だから、一旦家の方角に戻ろうか」
「……………………ん」
夜羽は若干、頬を赤くしながら目を逸らしてついてきた。
やっと自分が間違ってたことを認めたらしい。
ボソッと聞こえてきた「最初から聞けばよかった……」の言葉に俺は笑いを噛み殺しながら歩いていく。
「っと、休みの日に朝から訪ねるのに、何の連絡もしないのは失礼か……とは言え、話すの面倒だな……うし、ほい夜羽」
「ん?」
「前に教えただろ? 電話。とりあえず『もしもし、夜羽と申しますが、蛍さんいらっしゃいますか?』って言って、本人が出たら今から遊びに行ってもいいか聞くんだ」
その言葉に夜羽はキョトンとした顔で、告げてきた。
「ホタルはさん付けいらないって言った。それにいつでもいいとも言った」
「それでも、だって。彼女本人が出るとも限らないし、いつでもいいって言っても、いきなりだと驚くだろうし」
「……ん、わかった」
そして夜羽は言われるがまま、通話ボタンを押した。
少し待った後、
「も、モシモシヨハネトモウシマス、ホタル……サン、イラシャイマスカ?」
と若干片言になりながら言われたとおりの言葉を言った。
噛み気味ではあったが。
「……ん……ホ、ホタル……? ん、そう夜羽」
どうやら本人に代わってもらったらしい。
「……ん、今から遊びに行きたいと思う……ん、今から。……わかった」
夜羽は電話から耳を放し、じっと携帯を見つけていた。
「終わったのか?」
「ん、つーつー言ってる」
「終わったんだな。で? なんだって?」
夜羽の声を聞く限り、今から来ることに驚いていたので、難しいとは思うが。
「いいよって」
「おぅ!? そ、そうか」
許可されたらしい。唐突過ぎる話だっただけにちょっと驚いた。
「ん、行こ?」
「……ああ」
そして紙に書いてある住所まで、俺と夜羽は向かう。
あ、俺が一緒であると伝えていないや。