彼の待ち時間とまさかの再会の話。
両親を二年前の冬、交通事故でなくした。
それから俺は、一人暮らしをしている。
家は、家族三人で暮らしていたマンションをそのまま使っている。
両親の部屋はきちんと片付けて、物置となっている。
そのままにしておくと、少し昔を思い出すからだ。
事故の後、身寄りのない俺は、誰かに引き取られることもなく、一人きりになった。
幼なじみの女の子やその家族が一緒に住もう、といってくれたが、迷惑をかけることになるし、何より家族で住んだこの家を離れたくなかった。
その幼馴染も事故からちょうど一年後、家の事情で引っ越していった。
本来、収入のない十四歳のガキがたった一人で生活できるはずもないが、俺の場合、金銭の心配は必要なかった。
遺産だ。
別に親が金持ちだったわけじゃなく、俺の父親の父親、つまり俺の祖父が金持ちだった。
その祖父が死んだときに、一人っ子だった親父に莫大な遺産が入った。
だが親父もお袋もその金にはほとんど手をつけず、自分たちで働いた金で生活していた。どうやら俺のために残すつもりだったらしい。
別にそんなことする必要はないと思ったが、結果的にはその金に助けられている。
自分で言うのもなんだが、元々しっかりしていた俺は、その遺産をうまくやりくりして生活している。
バイトをしようと思ったことはあるけれど、残念ながらうちの学校はバイト禁止だった。
事情を話せば問題ないと思うが、わざわざそんなことをするのは面倒だったので、結局バイトはしていない。
道で怪我をしたカラスを矢島さんのところに連れて行った後、俺は家に帰った。
カラスを見つけたあのとき、頭の中は助けなければと言うことでいっぱいになっていた。
前に犬が怪我したのを見たときはそれほどじゃなかった。
むしろ面倒くさいと思ったくらいだ。
カラスが好きなわけじゃない。むしろ厄介な存在だと思っている。
でもなぜかただ助けたかった。
――あのカラスはどうなっただろうか。
手術が終わるまで待っていようとしていたら、矢島さんに「今日は遅いから帰りなさい」と言われ、しぶしぶ帰ることにした。
終わったら電話すると言われたが、まだ連絡はない。
コン。
しかし矢島さんの腕は確からしいので、あまり心配はしていない。
コンコン。
……ん、ベランダの方から何か物音が聞こえた気がする。
「…………気のせい……?」
コンコンコン。
「……じゃないみたいだ」
――何かいるのか? しかしうちのマンションは十二階建てで、この部屋は八階だ。人がいるとは考えられない。
少し気になって見に行こうとしたとき。
ピリリリリリリリリリリリリリリリリリ!
電話か。
手元にあった携帯を取って、窓へと近づく。
「はい、もしもし。神尾です」
『あ! もしもし! 神尾君?』
「あ、矢島さんですか? 手術終わったんですか? あのカラスどうなりました?」
『あ、ああ。手術は無事終わって、もう暴れるぐらいには回復したみたいだ。あ、い、いや! それよりも!』
「? どうかしたんですか? 矢島さん。何か焦ってません? 少し落ち着いてください」
話しながら、ベランダの窓を開けるとそこには、
『いなくなったんだ! あのカラスが! 術後一度目を覚ましたんで、君に連絡しようとして目を離した隙に!』
包帯でぐるぐる巻きのカラスが一羽、こちらを見つめていた。
意味がわからない。――って言うかなぜココにいる。