外食と何故かお嬢様。の話。
続きです。
外食といってもたいした所に連れて行けるわけじゃない。
どこかのレストランなんかに行くのは気が引けるし、かと言って近くに定食屋なんてのはなかった。
おのずといける場所はファミレスぐらいしかなくなった。
ふらふらと夜羽を連れて近くのファミレスに入ると、
「いらっしゃいませですの」
「……………………」
見た事のあるお嬢様が店員さんをやってらっしゃった。
「あら? 神尾くんではありませんの」
「…………何故」
「ああ、この格好の事ですの? 一度アルバイトと言うものを体験してみたくて」
「うちの学校バイト禁止じゃ……」
俺が素朴な疑問を投げつけると、
「学校側には許可をとってありますの」
そう言いながら、ニヤリと含み笑いをして答えた。
「そんな事に金と権力使うなよ」
「失礼な事を言わないでほしいですの! 私個人がしっかり誠意を込めて説得しただけですの! 親も家も関係ありませんの! 何より大切な社会見学をさせない学校が間違ってるんですのー!」
だがしかし説得された側は、彼女の後ろに巨大な権力が見えたに違いない。
東城さんは真面目で自分の家を利用するつもりは無いんだろうけど、彼女は若干鈍感な所があるからな。
「……ま、いいけど」
「一週間だけの短期バイトを募集していたこの店を知り合いのおじ様に紹介していただきましたの」
ファミレスで一週間だけの短期バイトってありえない気もするが、そこはその知り合いのおじ様とやらの店に対する気遣いなのだろう。
向こうで店長っぽい人が恐る恐るこっちを見ている。
「では、続けますの。お一人様でよろしいですの?」
「あ? いや「シュン、入るならそこに立ち止まらないでほしい」おっと、わるい。ってことで二名で」
あまりの驚きで入り口前で立ち止まっていたためか、夜羽が少し怒りながら声をかけてきた。
「………………か、かしこまりましたの。こちらへどうぞ」
今度は東城さんが驚き戸惑っているようだ。
明日、学校で絶対聞かれるな……。
案内された席につき、次の日の不幸を想像していると、夜羽が興味深げに話しかけてきた。
「ん、シュン。今の誰?」
「ああ、学校のクラスの委員長で東城ゆりか。さっき相談したって言ったろ?」
そう言うと夜羽は少し不機嫌になり、
「……そう……」
とだけ答えた。
「な、なんか怒ってんのか」
「んーん」
「そ、そうか……」
確実に怒っているように見えたが、これ以上突っ込むのは危険な気がしたので、俺は話を変える。
「……あ、えーっと、このメニューの中から食べたいものを言えば、作って持ってきてくれるから。決まったら教えてくれ?」
「ん…………」
じっくりとメニューを眺める夜羽を見て、少しホッとする瞬であった。
「シュン、これとこれ」
「ん? どれだ……」
夜羽が選んだのは、ハンバーグのプレートにから揚げがトッピングされているものと、デザートのケーキだった。
――見た感じもう怒ってはいないようだ。
「ほんと、から揚げ好きだな。ケーキもだけど」
「ん、好き」
しっかり目を見ながら少し微笑んで、そう言う夜羽。
その表情に俺は若干照れつつ、店員さんを呼び注文をする。
幸い注文を聞きに来たのは東城さんではなく、別の店員さんだった。
と言うか恐らく、入り口で挨拶と案内する事以外はやらされないだろう。
スムーズに注文を聞き、戻っていった。
「シュン……気になってることがある」
注文をしてから少しした後、機嫌が治っていたはずの夜羽が、またも不機嫌になりつつあった。
「んー? ……ああ、夜羽も気づいたか」
だが今回は俺も理由はわかっていた。
ここから少し離れた席で飯田愛実がこちらを見ていたからである。
夜羽はどうも飯田に対していい印象を持っていないようだ。
人に好かれやすいタイプのあいつにしては珍しいが……。
「ま、ほっとけ」
「…………ん」
横目で飯田の方を見てみる。
――ん……もう一人いるようだ……あれは、志戸塚、か……?
……なるほどつかまったのか。
不憫な。
……それにしても……。
「今日はほんとに疲れる日だ……」
俺は誰にも聞かれないほどの小さな声で呟いた。
んー……東城さん使いやすい、かも?