夏休み最終日と彼の話。
朝、自然と目が覚めた。
今まで夜羽に朝から起こされてきたからか、そういう習慣が出来ていた。
「……今日で夏休みも終わりか」
大して気にした様子もなくつぶやく瞬。
時計を確認し、夜羽が起こしに来なかったことを若干疑問に思いながらも、ダルそうにリビングに向かう。
「…………夜羽の包帯、そろそろ取ってもいいんだったな……」
矢島さんには二・三日前から、傷も塞がっていてもうそろそろ包帯も取ってもいいといわれていた。
それなのに今まで取らなかったのはただなんとなく、気まぐれだ。
いつも起きるのが早い夜羽には珍しく、彼女はリビングにいなかった。
まだ起きていないのかと、夜羽に使わせている両親の部屋に向かおうとすると、ベランダの窓から朝の涼しげな風が入り込んできた。
「……風……?」
そちらに目を向けると、ベランダの窓は少しだけ開いていた。
――昨日、しっかり戸締りはしたはず……。
疑問に思う瞬の顔に、入り込む風で何かが飛んできた。
「おっ……と、なんだ?」
飛んできたのは包帯。
何かに気づき瞬は走り出す。
向かう先は両親の部屋。
勢いよく扉を開けるが、そこに望む姿はなかった。
一瞬、焦ったように捜しに行こうかと考えたが、すぐに思いとどまった。
これは夜羽の選択であると。
しばらく立ち尽くしてしまった瞬であったが、また今までの生活に戻ろうとする。
だが、そんなものはうまくいくはずもない。
前までなら寝ている時間も、二度寝はできそうにもない。
面倒くさいはずなのに、何もしていないと落ち着かない。
「あー……くそっ! いつもの俺じゃない! 落ち込みすぎだろ!」
たった数週間のはずなのに、居なくなるとこうも凹むものだろうか。
凹んだ気分を振り払うために外に向かう瞬。
だが、歩きながらも自然と目線は空の方に。
「って、未練ったらしい……。馬鹿か俺は」
「おや! 瞬君! 久しぶりー」
散歩しても気分の晴れない瞬に、よく聞く声がかかる。
「ん……飯田?」
「そうだよ! 久しぶり、元気だった? 今日は一人なんだ?」
「それなりに……って、宿題終わったんだ」
夜羽のことについて尋ねられていたのはわかったが、スルーして他の話題を振った。
「うん! 志戸塚君にメールして、教えてもらったんだ!」
「へぇ、あいつに……よくそんなことできたな? あいつは絶対面倒くさがると思ってた」
「そんなことないよ? 志戸塚君は学校でも教えてくれてたし。あー、でも保険で志戸塚君のメルアド聞いといてほんとに良かったよ……! 瞬君教えてくんないし、ほとんどやってなかったからどうしようかと思ったよ」
元々、俺は教えるつもりはなかったが、志戸塚は答えをほとんどメールで教えたってことか。
――ちなみに志戸塚は逆に教えないとしつこいから教えただけである。
「一回一回メールの受け答えしたわけか。よくやるな」
「違うよ? なんか志戸塚君にヘルプメール出したら、宿題の答えがのったメールがすぐにいっぱい送られてきたよ」
ということはつまり、飯田が宿題をほとんどやらないのを見越して、答えの書いてあるメールを事前に作ってて、教えてくれって言われたらそのメールを立て続けに送ったって事か。
「どこがわからないとかの受け答えが面倒だったからだと思うが……答えの載ったメールを予め作っとくのも相当面倒だろ……よくやるわ」
「ねー? 志戸塚君すごくいい人だよね?」
飯田がかなり論点のずれたことを抜かしていたが、気にしないようにしよう。
「ほんっとに! 誰かさんとは大違いだね?!」
……嫌味だったようだが、気にしないようにしよう。
「ソーデスネ」
「……それはもういいよ」