彼の空気いじめとからかわれと無自覚の話。
続きです。
矢島さんには無事、本当の話をすることができた。
夜羽の怪我については、夏休みが終わるごろには完治しているだろうと言っていた。
夜羽も飛べる日が近いと上機嫌である。
「おや? 矢島さんとの話は終わったのかい?」
「さて、夜羽。晩御飯、何が食べたい?」
「ん。から揚げ」
「うーん、から揚げね……。わかった、そうしよう」
「おーい!! 無視ー!?」
「ああ、空気さん。いたんですか」
「クウキ。びっくりした」
相変わらず、存在感の薄い人だ。
まあ、気づいてたけど。
「君は相変わらずきついね!? そして、夜羽ちゃん! さすがに神尾の名を冠するだけあって、すぐにこのノリについてきたね!」
「? ノリ?」
「気にしなくて良いと思うよ」
恐らく夜羽は本気で気づいていなかったと思う。
この人の気配は慣れてなきゃ絶対読めない。
きっと、バスケでは幻の六人目になれるに違いない。
「とにかく、話し終わったんだ」
「終わりましたけど……なんでですか。……つか、気配消して盗み聞きしてないでしょうね?」
「してないよ!! そんな人間に見えるのかな!?」
正直見えるし、それができる人間であることも知ってる。
「そうですね。すみませんでした」
「なんか信用されているように見えない!! しかも夜羽ちゃんも!」
言われて隣を見ると、夜羽も疑いの目を向けていた。
まあ、あれだけ驚かされたら、わからないでもない。
「それじゃあ、帰ります」
「え、このタイミングで」
「ん、シュン早く」
「はやっ!!」
夜羽はすでに扉の前にいた。
今すぐ出ようとしている夜羽だったが、それは阻止された。
別の人間が中に入ってきたのだ。
「む?」
「あら? ごめんなさい。大丈夫?」
「平気」
入ってきたのは、見たことのあるきれいな女性。
てか、春川さんだ。
「こんにちは。春川さん」
「あら? 神尾君? こんにちは」
「……シュン? 帰る?」
夜羽は晩御飯がから揚げだからなのか、早く帰りたがっていた。
「え? えっと?」
「あー、夜羽。紹介するからちょっと待って」
「ん、わかった」
春川さんは少し驚いている様子。
「えーっと、春川さん。……なんとなく、聞いてるとは思いますけど、こいつは夜羽です」
「夜羽。よろしく」
「ええ! 聞いてるわ? 私は春川静香。よろしくね夜羽ちゃん?」
「ん」
夜羽は若干警戒してるのか、気持ち動きが硬くなっていた。
しかし、春川さんはお構いなしだった。
「話は聞いてたけど……こんなに可愛いとは思わなかったわ……。神尾君。何もしてないでしょうね?」
「し、してませんよ!! 何言ってるですか!」
いきなりのとんでもない発言だった。
夜羽自身が意味がわからずきょとんとしているのが唯一の救いだ。
「だって、こんなに可愛いから」
「だからって、妙な疑いをかけないでください」
「ごめんなさい? でも……ふふっ。可愛いことは認めているのね?」
「っ!!!」
たまにこうやってからかってくる事もあったが、ここまで大きいのは始めてだった。
「顔、真っ赤よ?」
「……っく! た、確かに可愛いですよね? でも春川さんも美しいですよ?」
悔しかったのでちょっとした反撃に出る俺。
「あら? ありがとう。私も神尾君と一緒に暮らしたいかも」
「んなっ!!!」
失敗だった。
てか、見事にカウンター食らった。
クスクス笑っていて、からかわれているのははっきりしているのだが、顔が赤いのは抑えられていない。
絶対に勝てないような気がする。
「シュン? もういい? 行こ?」
すると、今まできょとんと春川さんとの攻防(だと言わせてください)を見ていた夜羽が助け舟をくれた。
まあ、本当に早く帰りたいだけなのかもしれないが。
「んー、夜羽ちゃんご立腹みたいだから、そろそろ行くね?」
――ん、ご立腹……?
不思議に思い、横を見ると確かに怒り気味の顔をしている夜羽がいた。
何に怒っているのかはわからなかったが、どうやら本当に助け舟だったらしい。
「夜羽」
「む?」
「ありがとうな」
助け舟に対して礼を言うと、赤面し、顔をそらした。
何か、照れさせるようなことを言っただろうか? それとも怒らせたか?
「ん。気にしないでいい」
「? そうか」
正直、何に対して気にしなくていいかわからなくなったが、とりあえず置いておくことにした。
「それじゃ、帰るか」
「ん、帰る」
「あーちょっと待って? 神尾君。大村君知らないかしら?」
「大村……ああ、空気さんですか。確か春川さんが来る前まで、隣にいたはずですけど」
「空気……新しいあだ名ね? ふふっ、ピッタリだわ。……それにしても……逃げたわね?」
「?」
後半は何を言ったか聞こえなかったが、なんとなく空気さんがひどい目にあうような気がした。
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