彼が教える彼女の事を知る獣医の話。
「……それで、どういう話か、聞かせてもらおうかな?」
ここに来る際の瞬の顔を見た矢島は、神妙な顔で問いかけた。
「えー……っと、まずは……自己紹介、か。夜羽」
「ん。ワタシは夜羽」
「え!? いきなりだな! えーっと夜羽、さん? 僕は矢島一郎。神尾君に聞いてるかな? よろしくね? あ、君が神尾君の親戚で一緒に暮らしているって言う?」
「よろしく。イチロウ」
一瞬、矢島さんを呼び捨てにしたことに動揺したが、本人も気にしている様子がなかったので、置いておく。
というかそれよりも、
「……何でそのことを知ってるのかは疑問ではありますが、皆に言ってるのは、その通りです」
「皆に言ってるのは……?」
「はい。その話をしようとしたんです」
いろいろ質問を続けようとした矢島は瞬の言葉で押し黙った。
「……あー、昨日言うことを考えて来たんですけど……うまく言葉がでないなー」
「む。じゃあワタシがする」
「え?」
瞬がどういう意味かを問いかける前に、夜羽は行動を起こした。
ポンッ!
と、妙に軽快な音と共に綺麗な黒髪の女の子はその場所から消え、服だけがそこに残る。
「……え」
「おい……」
その服の中から出てきたのは一羽のカラスだった。
矢島は突然の出来事に絶句し、瞬は何もかもをすっ飛ばした説明に頭を抱える。
横目で矢島の方を見ると、
「……………………」
明らかに矢島は状況の整理が出来ていない様子。
このままでは埒があかないと判断した瞬は、改めて矢島に説明を開始しようとした。
しかしそれは、いつの間にか人の姿に変化し、服も着直した夜羽にまたも奪われた。
「と言うことで、ワタシはシュンとあなたに助けられた、ニンゲン達が言うところの『カラス』。ケガが治ったか知りたい。ケンサ? が必要ならする。いつ飛べるか知りたい」
何のフォローもなく、自分の聞きたいことを聞く夜羽に嘆息する瞬。
正直叫ばれてしまっても仕方がないと思っていたのだが、予想に反し矢島の対応は冷静だった。
「えっと。じゃあ、もう一回カラスの姿に戻ってくれるかな? くわしく傷の具合を見たいんだ」
「? 矢島さん? あの、俺が言うのも変ですが、大丈夫ですか?」
カラスの姿に戻った夜羽の傷を黙々と見ている矢島に瞬が声をかける。
「だ、大丈夫だよ。い、いや、でも驚いているよ。ものすごくね。正直、頭の中が整理できてないからもしかしたらやっぱり大丈夫じゃないかもしれない」
やはり混乱はしているようだが、状況事態は理解できているように思えた。
「でも、いろいろ納得する部分がたくさんあった。特に最初の日。このカラスがこの病院から消えて、君の家に行ったこととかね」
「あー、あの時ですか……確かに不思議がってましたもんね」
「それで、やっぱりこの事は秘密なんだね?」
「はい。大事にはするつもりはありません。……正直、誰にも話さずにいるつもりだったんですけど」
「協力者が必要と思ったんだね?」
「……はい。……協力、お願いできますか?」
少し恐る恐るといった感じの聞き方になってしまったのは、やはりどこか不安があるのかもしれない。
「…………何、心配してるんだい? 僕が断ると思ったのかい?」
「! じゃあ……」
「当たり前だよ。君はもっと周りを頼ったほうがいい。何もかも一人で背負うとしないでね」
「あ、ありがとうございます」
瞬は一安心し、今後のことの相談をしようとしたが、
「む。それでワタシはどうなんだ?」
またしてもいつの間にか人の姿に成った夜羽に奪われた。
夜羽の着替えスピードが、向上している。