彼女の話。
――いたい。いたい。くるしい。何故こんなことになったのだろう。
皆が怪我している。何故? わからない。とにかくワタシは逃げた。
必死に逃げた。皆に助けられ、とにかく一生懸命。
そして限界が来た。
ここはどこかわからない。
このまま死ぬのかと思った。たぶん死ぬのだろう。
それでも、わたしは叫ばずにはいられなかった。有り得ないとわかっていても。
『……たす、けて』
ふと、体が浮いた気がした。ワタシに飛べる力はもう残ってない。死んだら浮くのかと思った。
でも違った。ニンゲンだ。
ニンゲンがワタシを持ち上げ走っている。
意味がわからない。
ニンゲンは嫌い。ワタシたちを見る眼が冷たいから。
ニンゲンは嫌い。何もしていないワタシたちを恐れるから。
ニンゲンは嫌い。ワタシたちの嫌がることを平気でするから。
ニンゲンは嫌い。そしてニンゲンが少し怖い。
でも、このニンゲンは何か違う。私を見る眼が違う。冷たくない。そして恐れていない。
でも、情けをかけられてるわけではなさそう。
考えているうちに、どこかの建物に入った。
ワタシを抱えているニンゲンが、白い格好で出て来たニンゲンに何か話している。
よく聞こえない。
眠いからだ。気を抜くと眠ってしまいそうだ。
白いほうのニンゲンがワタシを連れて行こうとする。
いやだ、まだ離れたくない。
なぜかそう思った。しかし抵抗も出来ない。
そして意識が薄れていくワタシを、白いほうのニンゲンがどこかへ連れて行こうとするのが何とか分かった。
眼が覚めたらどこかに閉じ込められていた。
ココはどこなのだろう。
白く狭い部屋に入れられ、部屋の一部にはガラスが張ってあるが、今のままじゃ出られそうにない。
体には、妙な匂いのする液体を塗られ、その上から白い布が巻いてある。
ただ一つだけ分かっているのは。
『……ワタシは、生きてる』
少し考えたところで、傷がさほど痛まないことに気が付いた。
さすがに動こうとすると、痛みはあるが、それでもココに来る前の痛みほどではない。
そういえばこの白い布、たしか『ほーたい』とか言うもので、人間が傷を治すために使うものではないか。
『助かった・・・の?』
しばらく考えていると、白い格好をした頭の毛が薄いニンゲンが近くまでやってきた。
「――――――――――――。」
何を言っているのかは、聞き取ることができなかったが、ニンゲンはワタシに触れようとした。
――触るな!
『やめろ! 近寄るな!』
「わ、なんだいきなり。ちょっ! よせ、暴れるな。……イタタタタ! わかった、わかったから髪はやめてくれ!」
白い格好のニンゲンは頭を押さえ、ワタシから二・三歩離れた。
「まったく……まあ、これだけ元気になれば問題ないだろう。一応、神尾君にも連絡を入れておかないと。かなり必死だったようだし」
『?』
何を言っているのだろう? ――カミオクン? ワタシを運んだあのニンゲンの事か?
あのニンゲンはなぜ私をここへ運んだのだろう。
助けるため?
何故?
ワタシたちがニンゲンを嫌っているように、ニンゲンはワタシたちを嫌っているのに。