相談と決意と緊急事態の話。
「んー……」
瞬は悩んでいた。
夜羽がこの家に来て約二週間。
矢島さんに隠し事をするのをやめるべきなのでは、と。
正直、そろそろ隠していくには人手が足りないのだ。
夜羽の怪我もほぼ完治している。
もちろん今も少しだけなら飛ぶこともできるが、あと少しすれば完全に空を飛ぶことも可能なのかもしれない。
夜羽自身もあと少しで全て治るとうれしそうに言っていた。
だが、一度は詳しい検査をしてもらうべきだと思う。
それにはやはり、獣医である矢島さんに協力を仰いだほうが、物事がスムーズに進むような気がする。
しかし、夜羽がそれに対して、どういう反応をするのかが不安だった。
夜羽もだいぶ人間に慣れ、友達の高嶺と犬のシヤンとも着々と仲良くなっていっている様子。
それでも、本当に信用している人間以外は警戒心を緩めない。
飯田などは常に警戒されっぱなしだ。
愛美は、瞬の家の場所を把握してからは、三日に一度のペースで訪ねてきていた。
瞬は八割方、居留守でやり過ごすのだが、運悪く夜羽の帰宅時間とぶつかってしまうときもある。
夜羽には鍵を渡してあるので、居留守自体はばれていないが、夜羽はいつも非常に迷惑そうな顔をしていた。
とにかく、矢島さんに話すのは夜羽の反応を見てからだ。
「ん。どうした?」
「……いや? なんでもない」
タイミングが掴めない……。
「む、何か言いたそう」
「そ、そうか?」
最近、夜羽が鋭くなってきている。
「ん、そう!」
「あー……えっと」
「…………ヤジマ?」
「んな!? ……なんで?」
激しく動揺する瞬に夜羽は冷静に続ける。
「わかる。最近ビョーインでのシュンの様子おかしい。絶対向こうもわかってる」
態度に出ているつもりはなかったのだが……平静を装うことは得意だったし。
――どうも最近うまくいかない。
「……まあ、そうなんだけど」
「ん、話して?」
「……まずは夜羽? お前、矢島さんの事どう思う?」
「? どう?」
「信用してるか。ってこと」
「…………わからない。……何故?」
「矢島さんに夜羽のことを話そうかと思ってた」
「! ……理由」
「ああ、やっぱり怪我の事とかは俺じゃあはっきりとはわからない。専門家の知識は必要だと思った。それと俺はあの人を信用してるから。俺たちが困るような事は絶対にしない」
「…………正直に言うと……怖い。シュンはあっさり受け入れてくれたけど、ニンゲンの常識でワタシの存在はありえない。ワタシ達は……いつも迫害される」
「……夜羽……」
「……でも、話したほうがいいと思うなら話していい。ワタシは怖いけど、シュンはヤジマを信用してる。ならワタシはシュンを信用する」
「……ありがとう」
「……ん」
とりあえず、話しに行くのは明日にしようという事になり、ひと段落し
「瞬くーん!! あそぼー!」
たかに思えた。
「いないのー?」
「…………」
「…………」
とりあえず居留守決定です。
何度も鳴り響くチャイムを無視して、瞬と夜羽は息を潜めた。
が、ここで最悪の事態が。
「あれ? 鍵あいてる?」
「「!!?」」
「ぶよーじんだなー」
と言いながら、入ってこようとする愛美。
まずい。この状態で入ってこられたら確実に一つ聞かれることがある。
カラスはどこか。
愛美は前々から瞬の家のカラスに興味を持っていた。
家に入ったならば確実に見たがる。
どうする。……いや、カラスがいないのは言い訳が聞かんが、夜羽がいない場合は出かけている最中で話は通じる。
即座に夜羽に目線を送ると、幸いそれだけで察知してくれたのか、すぐにカラスの姿になった。
ちなみに瞬の思考から夜羽へのアイコンタクトを含め、約一秒。
「おい……勝手に人の家に上がりこむな。不法侵入だ」
「あれ? 居たんだ? ……居留守?」
「いや、寝てた。ガチャリで目が覚めた」
「えぇ!? チャイムじゃなくて!?」
近所迷惑なほどチャイムを鳴らした自覚はあるようだ。
「何しに来た」
「冷たっ! 遊びに来たんだよ? あ、そうだ。瞬君ちのカラスどこ?」
「帰れ」
「再度冷たっ! あ、いたいた」
と、瞬の言葉を聞き流しながら、発見した夜羽に近寄っていった。
「怪我してんだからさわんなよ」
「わかってるよ? って、あれ? 夜羽ちゃんは?」
「出かけてる」
「むー。私あの子に嫌われてるのかな? あんまり話してかないんだよね?」
「……知らんな。で、何しに来た」
「え? さっき言ったじゃん? 遊びに来たんだよ?」
さて、どうしようか。
と、夜羽からの早く帰らせろというプレッシャーを受けながら考える。
そこで、あるものを思い出す。
それは、後、数日で確実に必要になるもの。
そして、飯田愛美は確実にそれを所持していないはずのもの。
「飯田? 遊びに来たって事は、夏休みの宿題は終わったんだな」
「!!!?」
「まあ、夏休みも後少しだし、なあ?」
「あ、あのさ、遊びに来たって言うのは冗談で……その、あの、しゅくだ「俺は見せたりはしないけどな?」……あぅ」
「…………」
「…………お願い!」
「断る」
「…………うわーん! 志戸塚くーん!! えまーじぇんしー!!!」
飯田は携帯を取り出し走り去っていった。