彼女を見送った彼の散歩の話。
少し短いです。
「いやーきぐーだねー? こんなところで会うなんて」
「奇遇、な。……いや、若干偶然と言い切れない要素もあるが」
今、俺は飯田と二人、公園を歩いていた。
一瞬、春川さんの顔が浮かんだのは気のせいだろうか。
――おそらく、気のせいではない。
「え? なに? 後半聞こえなかったんだけど?」
「……いや? 飯田はだいぶ以前の能天気が戻ってきたじゃないか」
「能天気って! って、あれ? いつの間にか、さん付けじゃなくなってる!」
「なんか、飯田にさん付けしてるの馬鹿らしくなった」
「新密度が上がってのプラスじゃなくて、私の評価が下がったマイナスだった!!」
と、いまいちわかりづらいツッコミを聞き流しながら、俺は歩みを進めた。
「……………………」
「……………………」
しばらくの間、無言が続く。
「えっと……最近、どう?」
「お前は、息子との接し方がわからない父親か!」
「あ、ええと。あ! 静香さんから聞いたんだけど、瞬君カラス飼い始めたんだって?」
「あ? ……ああ」
「それで、どう?」
「だから、そのあいまいにもほどがある質問はやめろ」
飯田はうぅーと唸りだし、頭を抱えていた。
訳がわからん。頭を抱えたいのはこっちのほうだ。
「でも、瞬君が動物を飼おうとするなんて、本当に珍しいと思って」
「ほっとけ」
「あう……。それで、そのカラスの名前はなんて言うの? つけたんでしょ?」
「ああ、名前は……いや、いわね」
「うえぇぇぇぇぇ!!」
「うるさい」
「いやいやいや! 何で教えてくれないの!?」
「……なんとなく」
ふと、考えたのは、飯田と夜羽が遭遇する可能性。
もしも、人の姿の夜羽と会って、カラスと同じ名前だとばれると、妙なことになる。
飯田は馬鹿なので気づくことはないだろうが、話がややこしくなるのは請け合いだ。
「えぇ! 教えてよぉ!」
「面倒くさい」
「またそれぇ!」
「俺の性格かつ俺の口癖なもんで」
「ぶー」
彼女はぶつぶつ文句を言いながらも、それ以上は聞いてこない。
さすがに今までに付き合いで、もうどう聞いても答えはもらえないというのがわかっているためだ。
とはいえ、頭の片隅にでもカラスの名前の話が残っていると厄介である。
多少なりとも誤魔化したほうがいいかもしれない。
「それより、ジュースかなんか奢るけど、いるか?」
「いる!」
「………………」
お馬鹿は話をそらすのが簡単で助かる。