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黒い鳥さんと一緒。  作者: 蛇真谷 駿一
夏休みで一緒。
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彼の話。2

 見えてきたのは、少々小さめの建物。

 ヤジマ動物病院である。


「やあ、また来たんだね。神尾かみお君、飯田さん」

 ちなみに、二人とも髪の事は、絶対に話したりしない。


 以前、飯田愛実が髪の事に触れてしまい、途端に暗くなり、地面に「の」の字を書き続けるというベタな落ち込み方をしてしばらく元に戻らなかったことがあるからだ。


「まあ、暇だったんで」

「私も!」

「だめだよー。夏休みもたくさん残っているのに、暇を持て余したくらいでこんなところに来ちゃー。そうだ! 二人で遊園地とかでも行ってきたらいいのに」


「やですよメンドイ。――っていうか何でこいつと」

「酷い!」

「あはは、神尾君。女の子にそんな事言っちゃだめだよ」

「そーだよ! いくら私でも傷つくよ!」

「……はあ……でも、わざわざ二人で行く理由がないじゃないですか」


「「…………はあー……」」

 二人揃ってため息をついた。飯田愛実にいたっては、なぜかこっちをジト目で睨んでくる。


 ――俺は何か妙な事を言っただろうか。


「最近気づいたんだけど、神尾君って鈍感だよねー」

「……私もそう思うー」

「え、そんなことはないと思いますけど?」


「あーあ、私は頭痛が痛くなってきましたよ、瞬君」


「……『頭痛が痛くなってきた』じゃない。『頭痛がしてきた』または『頭が痛くなってきた』のほうが正しい」

 ――……わからないと思うけど……。


「? 何が違うの?」

「(……やはりわかってない)説明、面倒くさい」


 というより、わざわざ指摘するような面倒なことをしなければよかった。


「…………少しは勉強したほうがいい」

「勉強嫌いー」

「でも飯田さんは将来獣医になりたいんじゃないんですか?」


「そうです! 怪我や病気で困っている動物を助けたいんです!」

「じゃあ、かなり勉強が必要になりますよ。僕も必死で勉強しましたから」


「……はーい。がんばりまーす」

「無理だ」

「酷い! ――あ! そう思うなら私に勉強教えてよ!」


「面倒くさいです」

「即答した!」



 彼女はいちいちリアクションがでかい。

「あははは、君らまるで漫才しているみたいだよ。ところで勉強といえば、二人とも宿題は終わったのかい?」

「うー。一つもやってませーん」

「俺は、夏休み前にもらった時点でさっさと終わらせました。それと漫才してるつもりは全くありませんので」


 ほんとに勘弁してほしい。



「早っ! どーしてあの量をそんな早くに終わらせられるの!」

「ところで矢島さん。前から聞こうと思ってたんですけど」


「無視された!」


「ん? なんだい?」

「俺らちょくちょく遊びに来てますけど、仕事の邪魔とかじゃないんですか?」

「ああ、大丈夫だよ。うちのスタッフが優秀だからねー。まあ、今は患者さんはいないしね」


「いっつもガラガラですもんね? いや、いいことなんですけど」

「……まあ、矢島さんがいいって言ってくれるならいいです」


「それはそうと「先生!いつまでサボっている気ですか!」……ごめん行ってくる」

「あ、はい。どうぞ、俺らにかまわず。俺らもう帰りますんで」

「矢島さーん。がんばってくださーい」


「ああ、またおいでー。帰りにいつものティッシュを貰ってねー」

 いつものティッシュとは、この動物病院に行くと、帰りに渡される特製のティッシュである。

 何が特製なのかというと、ティッシュの中の型紙一枚一枚に矢島さん作の動物画が描いてあるからだ。良く言えば『個性的』悪く言えば『ど下手』。暇なときはずっと描いてるらしいが、一向に上達しない。



「はい、どうぞ」

 帰ろうとする俺たちに笑顔でティッシュをくれたのが、受付スタッフの春川静香はるかわしずかさんだ。

 春川さんは、ロングの黒髪に、清楚な顔立ちのきれいな女性だ。いつも静かに笑顔を浮かべていてたたずまいも、お淑やかだ。

 しかも暇をつぶしに来る俺たちに文句も言わないどころか、矢島さんが忙しい時わざわざ話し相手もなしてくれるとても優しい女性。


 正直、この人と居ると気が楽だ。


「ありがとうございます。いつもいつもお邪魔してすみません」

「いえ、いいんですよ。矢島先生もあなたたちが来るのを楽しみにしているみたいですし、私も一緒に居て楽しいですから」

 そう言ってそっと微笑まれた。何となく照れ臭くなってしまい、目を逸らしてしまった。


「……ねえ、そろそろ行こうよ」

 ずっと黙っていた飯田愛実が少し不機嫌そうな声でそういった。


 なぜ、機嫌が悪いのか不思議に思ったが、面倒だったので気にしないことにした。


「ああ。それじゃあ、また暇になったら、来させてもらいます」

「さよなら。また来ます」

「ええ、二人ともまたいらっしゃい」



 動物病院を出たらもう夕方だった。さすがに昼まで寝ると、明るい時間が短い。

 帰りもまた散歩でもしながら帰ろうと思い、飯田愛実に用があると言って人通りの少ない道を歩き出した。


 飯田愛実は不服そうな顔をしていたが、文句は言わなかった。


 来たことのない道だったので、道に迷わないように気をつけながら、歩いているとそこに微かな血の匂い。


 少し気になって目を向けてみると、そこには傷だらけの体で横たわっている鳥がいた。





 まるで助けを求めるかのように一声鳴いた漆黒の鳥が。




 鳥さんでました。

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