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黒い鳥さんと一緒。  作者: 蛇真谷 駿一
夏休みで一緒。
18/144

彼の彼女についての考えと空気の存在の話。

 夜羽がうちに来て、三日がたった。


 驚いたことに、夜羽の怪我が治る速度はかなり速かった。


 これならすぐに良くなるだろう。

 本人も早く飛びたいとぼやいていた。


 この三日間、動きの練習のため人の姿で外に出るようにもなり、少しづつ人間に対する負の感情も薄れてきてはいるようだ。


 そして夜羽には、人間としての常識も少しずつ教えていった。

 どうやら人の姿のときは体質まで人と同じになるようだ。


 いつも料理のときは、鳥の体に悪影響なものを考えながら作っていたが、隣で生ごみを見ていた夜羽がつぶやくように、

「いつもの姿のときに平気で食べていたものが、なぜかこの姿のときまったく食べたいとは思わない。と言うよりなんか気持ち悪い」

 と言い出したのだ。


 思えば、食材を考えながら作ったとはいえ、味付けは人間のもの。与え続ければいくらカラスでも毒になるかもしれない。

 しかし、夜羽の体調にまったく変化はない。


 やはり、わからないことが多すぎる。なにせ夜羽自身も、人の姿になれることに関して、理由などはまったく知識がないのだ。



「シュン?」

「ん……なんでもない。それより、怪我もだいぶよくなってきたようだし、一回矢島さんのところで見てもらおう」


 人の姿になれることはとりあえず置いておこう。

 どうせ考えたって答えは出ない。

 何より考えることが面倒くさい。


 ただ、それとは別に少し気になることがある。


 それは夜羽は怪我が治っていくにつれ、なにやら考え込むことが多くなっている事。


 だが、それはおそらく本人の問題。

 口を出すことはできない。


「ん、わかった。行こう」

 そう言って、夜羽は玄関まで向かった。


「……って、ちょっと待て! その姿で行くつもりか!」

「あ、そうか。今戻る」

 ポンッ! という音とともに夜羽はカラスの姿になった。

 怪我の具合を見るときはいつもこの姿になってもらっていたので、すでに見慣れた光景だ。


 俺は夜羽を抱きかかえ、家を出た。




「矢島さんいますか?」

「ああ、神尾瞬君。矢島先生なら今、診察中だから少し待っててねー」

「はあ、臼井うすいさんは行かなくて大丈夫なんですか?」

「僕は別の患者を診てたからね。っていうか僕、臼井って名前じゃないからね? 大村おおむら 洋二ようじって名前があるから。ああ、その子が噂のカラスか」


 大村洋二。第一印象は、半人前。と言うより、印象が薄く、初めて会ったときは、一緒の部屋に三十分も居たのに、俺は気づきもしなかった。

 年齢は二十代前半にも見えるが、実際は謎とされている。三十歳後半だと言う噂もあれば、矢島さんと高校時の同級生だと言う噂、実は還暦を迎えてるんじゃないかと言う馬鹿げた噂まである。


「臼井半人前。うるさいです。馬鹿ですか?」

「ひ、酷い言い様だな……。さっきも言ったけど、僕、臼井じゃないよ? それに半人前って僕、結構長いんだよ? この仕事始めてから。まあ別にいいけど」


「………………」

「あー無視かー」

 この人とはいつもこんな感じなんで、お互いにあまり気にはしてない。


「ああ、神尾君。来てたんだ」

 診察室から犬を抱いた飼い主が出てきて、そのあとすぐに矢島さんが顔を出した。


「こんにちは。今日は一回こいつの診察してもらおうと思って」

「うん、わかった。だったらこのカードに必要事項を書いといて」


「…………め「面倒くさいってのは聞かないからね? 今日は遊びに来たんじゃなくて、診察に来たんでしょ?」………………はい」


 俺は渋々、カードに記入していった。


 この間、臼井はずっとその場にいたのだが、空気となっていたので、誰も何も言わなかった。




 ただのサボりだ。



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