彼女の悩みと小さなイライラの話。
暇だ。
暇すぎる。
シュンがカイモノに出かけてしまってワタシはやることがない。
最初のうちはテレビとか言うものをつけて、見ていたのだがあまり面白くない――と言うか意味がわからないので消してしまった。
空を飛びたいと思わなくもないが、まだ怪我が治っていない。
ゼッタイアンセイだ。
「……あの時、いったい何があったのだろうか」
夜羽は自分の怪我を見つめ、呟いた。
あの時、気がついたらワタシは怪我をしていた。何がなんだかわからないまま、逃げ出した。
近くに居た仲間はみんなやられてしまった――と思う。でももしかしたら生き残りがいるのかもしれない。だとしたらすぐにでも探さないと。
その為には怪我が治してここを。
「…………出なくちゃいけない」
そんなことは分かっている。
元々は少しだけ話をしたくて会いに行っただけ。
ただそれだけだった。
でもここを――シュンのそばを離れたくないとも思っている。
自分でも変だと思う。
でも事のほかここでの生活が心地よい。
「…………これからどうしよう」
とにかく、まず怪我を治そう。
考えるのは、後だ。
「……暇、だなぁ……」
気が付いたら目をきつく瞑っていた。
そうする事で、今ワタシが置かれている状況をも、見ない様にしたのかもしれない。
「ただいま」
奥から聞こえるシュンの声で目が覚めた。目が覚めた、と言うことはどうやらワタシは眠っていたらしい。
それよりも早く帰ると言っていたのに、ずいぶん待たされた気がする。
「一人暮らしなのに、ただいまは言うんだ」
文句を言ってやろうと立ち上がったが、知らない声が聞こえて、驚いた。
「まあ、たまには。それより、もうここでいいよ。後は中に運ぶだけだし」
「……うん、わかった」
「今日は悪かったな」
「いやいや、気にしなくていいよ? まあ、どうしてもって言うんだったら、毎日ジュースとか奢ってくれてもい「わかった、気にしないでおく。まったく」早っ! まだ全部言ってないよ!」
姿は見えないが、どうやら女のようだ。
それにシュンの声は、なんだか、楽しそうだ。
「ま、とにかく助かったよ」
「うん、また何かあったら言ってくれていいから」
「あー……考えとく。…………それとさ」
「ん?」
「何があったか知らんが、あんまり気にするな」
「……え?」
「何も考えず能天気なのがお前だ」
「ちょっ! 酷っ!」
「とにかく、いつも通りでいいんだよ」
「…………うぅ……」
「……まあ、それだけなんだけど。……じゃあ」
「ふぇ?! あ、うん。じゃあまたね。……あのさ」
「なに」
「えっと、その、……ありがと」
「…………おぉ」
足音がすごい勢いで聞こえる。走って帰ったみたいだ。
「あー、ただいま。遅くなってすまなかった。買う物が多くなってな」
シュンの顔が若干赤くなっているのが目に入り、ワタシはイライラが少し強くなる。
――なぜだろうか?
「…………」
「あー……悪かった。遅くなったこと怒ってるんだろ?」
確かに遅かったことは少し怒っていた。でもそれ以上に、
「……さっきの、誰?」
「? さっきの? ああ、聞こえてたのか。あいつの名前は飯田愛実。あいつは俺が通ってる学校で同じクラスの奴だ。学校については教えただろ?」
今日の朝、ニンゲンの事を少しだけ教えてもらった。
それとシュンの事も。
その時に、ガッコウの事も確かに教わった。
「今は確かナツヤスミで、ガッコウは無いんじゃなかったか?」
「そうだよ。会ったんだよ。偶然な。で、暇そうだったから荷物持ち頼んだんだ」
「それで、イイダマナミとやらはお前とは仲がいいのか?」
「あー、どうだろうか。個人的に言えば懐かれてるだけのような気もするけど」
何か胸の奥のほうがチクチクする。
「……イイダマナミと話しているお前は、どこか楽しそうだった」
「俺が? ……そうかな。まあ、他のやつと話すよりはマシだと思う」
シュンから、そんな話は聞きたくない。
だったら聞かなければいいのだが、質問をやめる事が出来ない。
「ふーん……イイダマナミとお前は……恋仲、なのか?」
「……は? 違うよ。何でそうなるんだ?」
その言葉を聞いたとき、わずかにイライラが収まった。
理由はよくわからなかったが、少し安心感があったこともあり、つい言葉を漏らしてしまった。
「……そう。…………なら、いい」