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黒い鳥さんと一緒。  作者: 蛇真谷 駿一
夏休みで一緒。
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彼の気まぐれと観察の話。

 無かったことや、放っておいた方がいいことなんてのは世の中、たくさんあると思う。


 そして今は、見なかったことにしたい。

 ――っていうか見なかったことにしようかな? よし、そうしよう。壁に頭を打ちつけながらなんかぶつぶつ言ってるクラスメートなんて気にしない。


「あ……瞬君……」

 見つかった……。ほんと、面倒くさい。


「…………何、してんの? 壁に頭なんか打ちつけて」

「え? あ、その、い、いろいろあって」

「…………ソーデスカ」

「またその返事!」

「何でもいいけどやめたほうがいいよ。そういうこと。周りの皆さんめっちゃ引いてたし」


「え?」

 彼女は周りをぐるっと見回すと一気に顔が赤くなった。今頃、通行人の視線が気になったらしい。


「何があったか知らないし、言いたくないなら聞くつもりもないけど、出来れば常識的な行動をとったほうがいいよ。……出来れば、だけど」

「ちょっ! 出来ればって! 出来るから! 普通に! み、見くびらないでほしいな」

「……そう」


 少し無理して笑っているように見えた。その顔を見るうちに、俺は、何か胸の奥がモヤモヤしている気がした。

「それじゃあ、俺は行くから」

「えっ! あ、ど、どこ行くの?」

「買い物」

「へー、そっか。じゃ、じゃあ、またね」


「……飯田さん」


「え?」

「…………暇なら、手伝ってくんない? 荷物多くなるかもしれないし」

「……え! て、手伝い?」


「うん。嫌ならいいけど、ジュースぐらいなら奢るよ」

「嫌じゃない! 手伝うよ!」

「そう」


 気が付いたら手伝ってくれるよう頼んでた。

 何でだろう。

 普段はこんなことなんて絶対言わないし、そもそも荷物が多くなる予定なんてない。


 ただ、なんとなく。

 少なくとも、こいつは――飯田愛実は、いつもみたいに馬鹿みたいに騒いで、いつも通りの顔で笑っていればいいと思ってる。



「そうだ! 今日ね、昼から出かけたんだけど、結構いろんな人と会ったんだよ」

「……いろんな人?」


「そう! 最初はね、蛍ちゃんと会った。あ、蛍ちゃんはあの時病院に連れて行った犬の飼い主の。今日はシヤンちゃんの……あ、犬の名前ね? 散歩中だったみたい」

 ああ、あの時の子か。

 ――無責任な飼い主だと柄にも無く説教をたれて泣かせてしまった女の子。

 本当にやりすぎてしまったが、後悔先に立たず、か。


「蛍ちゃん瞬君に会いたがってたよ? あの時の事を謝りたいのと、お説教してくれた事のお礼がしたいんだって」

「お礼? なんで」

「勉強になったって事じゃない?」

 どうやら真剣に受け取ってもらえたのかもしれない。


「そういえばさ、瞬君。シヤンちゃん名前の由来って何かな?」

「シヤン? 確か……フランス語で、犬って意味だったはず」

「そのまんまなんだ……」


 ふと、夜羽の顔を思い出した。……夜羽って名前、気に入ってるんだろうか。

「まあ、どんな名前だって気に入っているんだったらいいよね」

「……ああ」


「その後すぐに、志戸塚君に会ったの」

「志戸塚? あいつ休みの日でも外に出るんだ」

「どんなイメージ!」

「いや、自分で言ってたぞ。だるいからあんまり外に出ないって」


「すっごい、めんどくさがりだ……。瞬君そっくり。仲もいいしね」

「仲いい? あいつと? 俺が?」

「うん、瞬君が学校で自分から話しかけるのって志戸塚君だけじゃない?」

「あー、そういえばそうかもしれない」


 最初に見たときから思っていたことだが、あいつと俺は少し似ている。

 もちろん顔とかではなく、性格。


 あいつも俺と同じ――いや、俺のはるか上を行くめんどくさがりだ。



 そういうところもあり、俺が話しかけるのはただ、他のやつらより少しは一緒にいるのに気が楽なのだ。


「でも、まあ、仲いいってほどではないよ」

「えー、そーかな? あ、それでね、宿題のこととか話したんだ」

「…………」

「? ど、どしたの?」

「……と……か……」

「え?」



「あいつ、人と話したのか……!!?」

「え! それそんなに驚くことかな!」


 驚くことだ。学校にいるときでさえ、俺以外があいつに話しかけて返事が返ってくるのは、ごく稀だと言うのに。

 ――あいつが休みの日に出かけ、さらに話しかけたら会話が成立するなんて!


「それで、志戸塚君と話した後、静香さんと会ったの」

 愛美は、驚き戸惑っている瞬をおいて、話を進めた。


「静香さん? 春川さんか? 飯田さん、春川さんのこと名前で呼んでたっけ」

「あはは、今日いろいろ話して仲良くなったから呼ばせてもらうことにしたんだ」


 また、無理して笑っている。

 どうやら春川さんと何かあったようだ。


「……なあ、「あ! ほら、もうすぐスーパーに着くよ! 早く行こ!」……ああ」


 話を聞こうと話しかけたが、ちょうど目的地の近くまで来てしまい、彼女は先に走って中に入ってしまった。



「…………ま、あいつの問題だ。放っておくか。……てか面倒くさい」


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