お宿に着いて、一羽加わっての話。
数時間が経ち、バスが最初の目的地である宿に到着した。
「皆さん、着きましたの。とりあえず荷物を置きに行きますのよー」
「……てか、なんで最初に宿?」
俺の呟きを聞き東城さんが呆れたように口を開いた。
「……神尾くん。しおりをちゃんと読んできませんでしたの?」
「面倒で」
「でしょうね。今日はまず、この近くにある歴史博物館を見物するんですの。ですから大きな荷物とかを先に宿に置かせていただいてから、歩いて向かうことになってますのよ」
「なるほど」
「わかっていただけて何よりですの。では神尾くんも荷物を置きに行ってくださいの。お部屋もしおりに書かれていますので、ちゃんと見てください」
東城さんの言葉に軽く手を振り応え、言われた通り自分の部屋に行こうとしたが、
「ん、シュン。いた」
朝も聞いた声に遮られた。
「っと、着いたか。早かったな。大丈夫か? 疲れてないか?」
「ん、大丈夫」
「あ、夜羽さん、着きましたのね。では早速……夜羽さん少しついてきてくださいますの?」
「む? わかった」
そう言って東城さんは夜羽を連れ、担任のいるところまで歩いて行った。
そして担任に何やら話している様子。
俺はボーっとその様子を観察していると、
「神尾くんもいらしてくださいの!!」
と声をかけられた。
とりあえず近くまで行く。
「ほら神尾くんもちゃんとお願いするんですの」
「へ? えっと、すみませんがよろしくお願いします……?」
よくわからなかったが、説明を聞くのが面倒だったので、言われるがままに行動した。
すると担任は、頭を下げる俺を見て答えた。
「そうか……事情があるなら仕方がないな。それにバスでも言った通り、今回の修学旅行は、ほとんどをお前たちに任せることにしている。その代表者である委員長が認めてるんだ。自分が反対する理由がない………………それに、校長の馬鹿がついてくるより遥かにマシだ」
「え?」
「いや、なんでもない」
どうやら夜羽の同行を認めてくれるらしい。
放任主義すぎると思わなくもない。
…………てか最後に本音が出た気がする……あの校長ついてくる気だったのか……。
「とにかく、事情が事情だ。……神尾、ちゃんと一緒にいてやるんだぞー」
「は、はあ……」
そういって担任はあくびをしながら宿に入っていった。
「ゆっぴーさんや、担任に何言ったんだ?」
「あら、夜羽さんの事情を教えただけですの。もちろん前にでっち上げました誤魔化すためのものですけれど。……さ、夜羽さんも一緒にいきますの。お荷物は準備してますのよ」
「ん、いく」
東城さんはそのまま夜羽を引き連れ宿に入っていった。
「……いくら事情があるといっても普通は許されることじゃないんだがな……。ここは担任様様ってとこか……?」
そう呟き、俺も宿に入る。
「よう、同室よろしくな」
「ええ、よろしくお願いしますね」
「…………」
言われた通り自分の部屋にさっさと荷物を置き、同室の志戸塚と田中と一緒に集合場所に向かう。
……ここは心底藤森じゃなくてよかったと思う。
といっても、明日以降は藤森が一緒なのだが。
そして集合場所。
「…………なにこれ」
「はー……何があるんでしょうね?」
「……………………」
そこにはうちのクラスの連中が、ガヤガヤと一カ所に集まり、何やら質問を繰り広げていた。
もちろんそれはいい。
ここに集合になってるんだから、早めにみんなが集まっていてもおかしくない。
そこにいるのが案内役の人だったら質問とかもするだろう。
だが残念ながら。
「………………」
その中心にいるのは、案内の人などではなく、周りの様子にポカンとしている、俺にとってすごく身近な方だった。
「……何がどうしてこうなってる……?」
「…………ん……シュン……!」
人ごみの中、俺を発見したのか、少し声を張って俺を呼ぶ夜羽。
夜羽が完全に目で助けを求めているぞ……。
夜羽の声に反応して全員が俺の方を向く。
なにこれなんか面倒くさそう。
志戸塚と田中はさり気なく俺から離れやがったし……。