少女と看護士の邂逅の話。
「あら? 飯田さん?」
「……こんにちは。春川さん」
「こんにちは。飯田さんはお散歩?」
私は正直、春川さんの事があんまり好きじゃない。
だってなんか瞬君が私より春川さんに心を開いてるような気がして。
「はい。春川さんはどうしたんですか? 今日は仕事じゃありませんでした?」
「ええ。今はお昼の時間だったから。外に食べに出てたの」
「そうなんですか? でもどうしてまた? いつもお弁当でしたよね?」
「んー、今日はちょっとね」
「……そうですか。それじゃあ、私はそろそろ行きます」
「あっ! ちょっと待って!」
「……なんですか?」
今、すごく不機嫌そうな声が出た気がする。
折角話しかけてくれたのに、私、最低だ。
「さっき、うちの病院に神尾君が来ててね? 先生といろいろ話していたみたい。何か相談があったらしいの」
「? それがどうかしたんですか?」
私の知らない瞬君の話をこの人から聞くのは、なんとなく嫌だった。
理由はわかってる。
ただの嫉妬だ。
「うん。でも先生に出来る事ってやっぱり限られてるから、飯田さんも力になれる事もあると思う」
「?」
「今回、神尾君の手助けをしてあげることで、一気に近づくチャンス! ってこと」
「え? いや、あの、いきなりそんなこと言われても……」
「私は二人のこと、応援してるの!」
「……でも、瞬君はどっちかって言うと、春川さんのほうが……」
「そんなことない! 多分、神尾君にとって私や先生は、何か遭ったときに頼る、拠り所のような存在だと思うの。その証拠に、今回も先生のところに相談に来たし、前に一度私のところにも相談に来た事がある」
「拠り所……」
「そう、拠り所。今は、私や先生くらいしか神尾君が頼ってくれるような人はいないけど、飯田さんにもそういう存在になれると思うの。私個人としてもなってほしい。だから、私は応援してる」
「……あの……」
「? 何?」
「…………えっと…………どうして、春川さんはそこまで瞬君のことを気にかけたりするんですか? ……何か、あるんですか?」
「………………」
え……春川さんのこんな顔は初めて見た。
――すごく、悲しそうな顔。
「あの、」
「……似てるのよ……。四年前に病気で死んだ弟に……」
「……弟さん……?」
「ええ、顔、とかじゃなくて……雰囲気みたいなものが。それにあのちょっとめんどくさがりな性格も少しね。だから……少し思い出しちゃって」
「……あ、えっと、ごめんなさい……」
「いいの、気にしないで? 私は多分、神尾君と弟を重ねちゃってるの。だからかな? 神尾君には幸せになってほしくって。……あ、もちろん飯田さんにもね」
「……ありがとうございます。…………私、もう少し頑張ってみます。」
「うん。応援してる」
「……………つらいこと聞いてしまって、本当にすみませんでした。」
「あははは、大丈夫、気にしないでってば。あ、そろそろ昼休みが終わりの時間みたい。それじゃあ、またね」
「あ、はい、また。……あの!」
私は急いで病院に戻ろうとする春川さんを呼び止めた。
「んー?」
「あの……名前、で呼んでいいですか?」
「……いいよ。だったら私も飯田さんのこと愛実ちゃんって呼ぶことにする。あ、でも一応私のほうが年上だから、さん付けぐらいはしてね?」
春川さん、じゃなくて静香さんはそう言うと、いつもとの大人っぽい微笑じゃなくて、子供の様に悪戯っぽく笑った。
「わかってますよー」
からかわれているのが照れくさくて、顔が赤くなってしまう。
静香さんは私の顔を見て、少し笑いながら走って病院に戻っていった。
静香さんが見えなくなった後、正直、自分で自分が嫌になった。
私はやっぱり馬鹿だ。
ただの嫉妬であんなにいい人を勝手に嫌って、何も考えずに静香さんを傷つけてしまった。
気が付けば、近くの壁に頭を打ちつけながら自己嫌悪に陥っていたみたいだ。
おでこが痛い。
そろそろストックが切れ始めました・・・・・・。
申し訳ないですが、今までのように連日更新が難しいかもしれません。
しかし、まだ頑張りますので、応援よろしくお願いします!