出発の日の話。
「……さて、そろそろ行くが」
修学旅行当日朝、準備を終わらせた鞄を持ち、夜羽に声をかける。
「ん、シュン。途中まで一緒にいく」
「わかったわかった」
ちなみに夜羽は完全に手ぶら。
夜羽の細かい荷物はすべて東城さんが手配しているようだ。
――こういうところには、家のお金を使うんだよな……。
流石に世話になりすぎてることが気になって、一度聞いてみたところ、普段あまりわがままを言わない東城さんが、珍しくわがままを言ったことがうれしくて、親御さんは喜んでお金を出してくれているらしいので、気にしなくていいそうだ。
ま、まあ……気にしなくていいならいいか……面倒くさいし。
学校までの道を夜羽と歩いていく。
……どのあたりから別行動になるんだろう……?
「そういえば夜羽? 二つ隣の町とは言え、本当に大丈夫なのか?」
「ん、平気。途中で休みながらいく」
「ならいいんだけどさ。無理はするなよ? 後、事故とか気を付けるんだぞ? それに危ないもんには近づいちゃだめだ」
「むぅ、シュン……カホゴ」
「………………」
夜羽はそう一言呟き、歩いて行こうとする。
俺はそれを阻止する。
「待てぃ」
「む?」
「また奴らなのか? お前さんに余計なことを吹き込むのは矢島&東城なのかー!?」
「ん、ホタルたち」
「そっちかっ!! なんだ、あの人たちの俺に対する印象はそうなのか!?」
「シュン、早くいく」
「っ…………そう、だな……とりあえず、忘れよう……」
その後、途中で夜羽と離れ、学校前まで付く。
距離が距離なもんで、学校に集合して、バスで行くことになっているためだ。
「おはよう瞬君!」「いよう、神尾」
「……俺が学校前につくと、すぐに飯田愛実と馬鹿に声をかけられた」
「どうして説明口調!?」
「てか、俺の名前呼んでなくね!?」
呼んでるじゃないか。しっかり。
「とりあえず、おはよう。さすがと言うべきか、勉強に関係ないことだと来るのが早いな。二人とも」
「「………………そんなことは、決して……」」
「……ソーデスネ」
わかりやすい……。
「おはようですの、神尾くん。早速楽しそうですのね」
二人に絡まれていると、東城さんに声をかけられた。
持ってるものを見る限り、点呼の最中か。
「この二人はな。俺はこいつらのテンションで疲れている」
「「ひどっ!!」」
「まあ、飯田さんはともかく、藤森君相手だと、疲れるのもわかりますの」
「追加でひどっ!!!」
未だ騒ぐ藤森を放っておいて、点呼の状況を聞いてみる。
「それで? 後何人くらい来てないんだ?」
「いいえ? あなたで最後ですのよ?」
「……マジか。結構早く出たつもりだったが」
「それだけ皆さん楽しみにしていたということでしょうね。あ、飯田さん? 先生に全員来たことを伝えてきてくださいの。藤森君は早くバスに乗り込んで大人しくしていてほしいですの」
「うん、わかったー」
「俺の扱い悪!!」
飯田は言われたことを駆け足でやりに行き、藤森は若干肩を落としてバスに乗り込んだ。
……多分すぐに復活すると思うけど。
「……で? わざわざ人払いしたってことは、夜羽の事か? ゆっぴー」
「さすがにわかりますか。夜羽さんはもう出発されたんですの?」
「いや、夜羽だけで行くのは無理だろ。朝、途中まで一緒に歩いて来たから、近くにいるんじゃないか? バスを追っかけるために」
俺がそういうと東城さんはすんなり受け入れた。
「そうですの。とりあえず、夜羽さんの事はわたくしたちが宿に着いてからですの。多分その時は神尾くんにも手伝ってもらうことが出てくるかもしれませんが、よろしくお願いしますの」
「……面倒事はあんまりよこさないでほしいんだけど」
「でも、夜羽さんの事ですし」
「…………わかったよ……」
「ふふっ、ではそろそろ出発の時間も近いですし、行きますのよ」
「へいへい」
俺はのろのろとバスに乗り込む。
その時近くでカラスの鳴き声が一声聞こえた。
どうやら家の黒い鳥さんも、修学旅行を楽しみにしているようだ。
ようやく修学旅行です。
長かったですね。
感想、待ち受けてます!(笑)