行く前に、ちょっと挨拶。の話。
繋ぎの話……と言うか、ここで出しとかないと、この章に出番はないと思います!
次の休みの朝、いろいろ言いたいこともあり、矢島さんのところに行った。
「失礼しますー」
「あら、いらっしゃい神尾君。なんか久しぶりね」
ドアを開けるとすぐに春川さんが笑顔で出迎えてくれた。
「あー、そうですね。テスト勉強でなかなか来られませんでしたし」
「うふふ、ええ。聞いてるわ。愛実ちゃんの『為に』色々頑張ったのよね?」
……なんか『為に』を強調された気がする。
「……まあ、約束でしたんで。矢島さんは今……?」
「ええ、先生ならお仕事中……って言いたいけど、多分今の時間なら、ティッシュの絵でも描いてるんじゃないかしら」
「……まだ無駄な努力を」
「そう言わないの。先生も頑張ってるんだし、あれはあれで意外と人気があったりするのよ?」
確かに個性的、だからなー。
「矢島さーん、失礼します」
「ん? ああ神尾君。久しぶり」
「ええ、お久しぶりです。……早速ですが……夜羽が修学旅行についてくることになりましたよ。どうしてくれるんですか」
軽くジト目で矢島さんを見る俺。
すると、少し驚いた顔をした矢島さん。
「え、ってことはやっぱり近場なんだ? 修学旅行」
「そう、ですけど……やっぱり?」
俺がそういうと、矢島さんは笑いながら、
「いや、僕が夜羽ちゃんに、飛んでついてけばいいって言ったのは、ほんの冗談だったんだよ。だって、夜羽ちゃんが飛んでついていくにも限界があるからさ」
と言った。
「そうだとしても、どうしてやっぱりなんですか?」
「それがね? 僕が夜羽ちゃんに言ったその言葉を聞いた東城さんが、意外と夜羽ちゃん同行話にノリ気で、まるで夜羽ちゃんが飛べる範囲に修学旅行先があるみたいな言い方をしててさ。多分無意識だと思うけど。だからもしかしたらその会話はフラグで、東城さんがくじで近場を引き当てるんじゃないかなー? って思ってたんだ」
で、東城さんは自分で建てたフラグを自分で踏み抜いたと。
俺が軽く呆れ顔でいると、矢島さんが今気が付いたように口を開いた。
「そういえば、今日は夜羽ちゃんは? 一緒じゃないのかい?」
「ああ、今日は朝から東城さんが家に来て『夜羽さんをお借りいたしますの! 修学旅行についての会議ですのー!』って楽しそうに夜羽を連れてきました。夜羽はよくわからないといった顔で連れてかれました」
「あはははは、修学旅行が近場の場所で落ち込んでるかと思ったら、結構元気だね」
「引き当てた直後は大変でしたけどね。聞きます? 後々語り継がれる……かもしれない『委員長、涙の狼狽事件』」
ちなみに、命名――藤森宗一。
「お、面白そうだね。聞かせてもらう」
「わかりました。まずは最初から――――」
「それじゃ、失礼しますね」
「ええ、またね」
「神尾君、修学旅行のお土産よろしく」
「二つ隣の町で何を買えば…………まあ、なんか適当に買ってきますよ」
さて、もう昼か……とりあえず飯でも食べてゴロゴロするか?
「あ! 神尾さん!!」
っと、お? なんか声がかけられた。
声のした方を向くと、高嶺母娘が買い物袋をぶら下げ、歩いてきた。
「こんにちは、神尾さん!」
「なんか久しぶりね?」
「こんにちは。そうですね、お久しぶりです。テスト勉強で忙しくて」
「ええ、聞いてる。それで? テストはどうだったの?」
「俺はいつも通りです。で、教えられてた方も今回は上々……っぽいですね」
俺がそう言うと、高嶺母は軽くからかい気味に、
「あら、あなたは結構頭がいいのね?」
と言われた。
「…………普通ですよ普通……」
そう答えると、今度は高嶺が質問してきた。
「あ、それで神尾さん? 修学旅行はどこに決定したんですか?」
俺は高嶺のその質問に苦笑いで答える。
「ははは……二つ隣の町」
「あ……あー……えっと……お、お土産期待してます!!」
「いや、無理にフォローはいらないから。別に落ち込んでもないし」
「ふぇ? そうなんですか?」
「うん、実際行ったこともなかったし、それに……まあ、知り合いもいるはずだし……さ」
「行ったことないのに……お知り合い、ですか……?」
「あー……いや、それは置いといてもさ、クラス全体がノリ気だから。それに何故かうちの夜羽もついてくるっぽいし」
「はーそうなんですかぁ……夜羽ちゃん羨ましいな」
と、俺と高嶺がのほほんと話していると、
「待ちなさい」
額に手を当てた高嶺母が口を開いた。
「なんでしょう?」
「いえ、最後なんかおかしな言葉が聞こえて……しかもそれをうちの娘があっさり受け入れてたことにちょっと呆れて……や、それは置いとくわ。…………クラス全体がノリ気だから、の後をもう一度聞かせて?」
「それに何故かうちの夜羽もついてくるっぽいし」
「……どうして?」
「ワタシも行く、と言ってきかなかったからでしょうか」
「…………学校側はそれでいいの?」
「全学年で修学旅行ですよ? 一クラスに担当教師は大体担任の一人です。で、基本的に放任主義で、委員長に丸任せですので、うちの担任」
「………………じゃあ、その委員長さんは」
「その委員長が夜羽の参加に一番ノリ気です」
「……………………それでいいのかしら……」
俺の話で呆れ顔の高嶺母。
それを見ていた高嶺が口を開いた。
「でもお母さん」
俺は何となく高嶺が次に言おうとしてることに見当がついたので、高嶺に被せて言うことにした。
「「あの学校なら面白ければ何でもありじゃない(ですか)?」」
俺たちの言葉に高嶺母はポカンとした表情を見せる。
そして、やっぱり呆れた表情になって、一言。
「……蛍、まだ遅くないから、志望校変えなさい」
でも、高嶺はあの学校向きな性格してると思うけどなぁ、俺は。
と言うことで、修学旅行編では出る機会がないであろう人たちを。
逆を言えば、ここで出てこなければ、この章に出てくる可能性が……?
?「………………とうとう、その場にいる雰囲気すら感じ取ってもらえなかった。
僕も近くにいたのになぁ……」
感想お待ちしております!!