番外編の話。――エイプリルフールの話。
前話の後書きから見ると、嘘をついてしまいましたな……。
ということで、季節物の特別編です。
しかし長くなった……。
朝、いつもの通り夜羽に起こされる。
「ふぁー……ねむ。……おはよう夜羽。今日は珍しく普通に起こしたな」
「……ん」
「? どうした夜羽。なんかあったのか?」
「む……シュン」
「ん?」
「ワタシは今日からユリカの家に住む」
「………………へ?」
言っている意味を理解する前に、夜羽は自分の部屋に戻っていった。
その後、取り合えずむりやり落ち着き、朝ご飯と弁当をつくって、理由を聞くために夜羽が出てくるのを待っていたが、一向に出てくる様子はなかった。
気になって部屋まで行ってみると、そこには誰もいなかった。
部屋の窓は開いたままで。
「…………飛んで、出てったのか…………」
夜羽が出て行ったのがわかったあと、とりあえず学校に行くことにした。
もちろん、それが普通のことなんだが、俺の目的は、もう一人の事情を知ってそうな人物に会いに。
ガラガラ。
教室内に入り、真っ先に目的の人物の席に目を向けるが、残念ながらまだ来てはいなかった。
「あ、瞬君おはよう」
「……ああ」
「あ、えっとね? 瞬君……?」
「んー?」
「じ、実は、私……塾で百点を取ったの!!」
「…………そうか、すごいな」
「ふっふっふ、今のは私が塾に通っているというのと、百点を取ったという二重の……ってあれぇ!?」
飯田が何か言っていたような気がしたが、俺は無意識に飯田の頭に手を置き、頭を撫でていた。
夜羽を褒める時の行動がそのまま出てしまったようだ。
「ほぇあぇ!? はぅぅ……!」
すると飯田は何語かわからん声を発し、フラフラと自分の席に戻っていった。
……よくわからんが、語学を勉強してるんだろうな。
そのまましばらく待ってみたが、一向に東城さんは現れなかった。
その間、藤森が何か言ってきたような気もするが……まあいい。
そうこうしてる間に、担任が現れ、来て早々若干焦り気味で口を開いた。
「え、えー……突然だが、委員長の東城ゆりかさんが、本日から東城グループを引き継ぐことになり、代表取締役に就任することになった。その引き継ぎ業務のため、今日は休みだそうだ。基本は学校には来られないどうだが、一応学生としてもまだ在学扱いになるので、時折顔を出すとのこと。ちなみにこれは東城グループ系列全社に通達されているそうだ」
『……………………』
クラス中に広がる沈黙。
そして、
『えええぇぇぇぇぇぇーーー!!!!』
クラスのほとんどが一斉に「しゃ、しゃちょう!?」やら「も、もう委員長がっこ来ないの!?」やら騒ぎ出した。
その中で数人、別な表情をしている者もいた。
藤森や渡さんは「やりすぎ……」と苦笑いをし、志戸塚なんかは呆れたようにため息をついてた。
そんな中俺は、全く別なことを考えていた。
「(――ってことは、夜羽のこと聞けない……どうする……)」
学校が終わり、すぐに矢島さんのところに向かった。
東城さんの電話はつながらなかったので、残る相談できる相手は矢島さんしか思い浮かばなかった。
「矢島さん、ちょっと相談が」
「お、君もきたのかい。ちょっと意外だったよ。よし来なさい。どんなのか楽しみだよ」
「? すみません何言ってるかわからないです。それより相談が……」
「あれ? てっきり面白い嘘をつきにわざわざ来たのかと」
「嘘?」
「うん、エイプリルフール」
「………………え?」
「え?」
「なるほど……そういうことねー……」
「…………恥ずかしながら……」
矢島さんの言葉に、改めて冷静に考えてみると、今日は朝から皆、嘘をついてたっぽい。
ただ、一番最初の嘘が衝撃的過ぎて、他をすべてスルーしてしまった。
飯田も(恐らく)渾身の嘘だったろうし、東城さんのに至っては、会社まで巻き込んだ大掛かりすぎる嘘だ。
クラスの連中は未だに信じてるに違いない。
「神尾君ともあろうものがー」
「いや、だって実際に出て行かれたら……」
「まあ、それは多分彼女も予想外だろうけど」
「え?」
「だって、昨日東城さんが夜羽ちゃんになんか耳打ちしてたし。でもまあ、多分たとえ話でそういうこと言ったら、実際に実行されたとかそういうのだろうけど」
…………なるほど、な。
……どう、仕返ししてやろうか。
そのまま家に帰ると、やはりと言うべきか、夜羽が出迎えてくれた。
「ん、おかえり」
「…………ただいま」
「む、シュン……ごめんなさい。朝、嘘ついた」
「ふー……もういいよ、ただああいう嘘は、もうしないこと。……色々混乱する」
「ん、わかった。もうしない」
俺は、そう言い、軽く夜羽の頭を撫で、自分の部屋に向かった。
「ちなみにどこ行ってたんだ?」
「ん、アイス屋のテンインのとこ」
「………………なんか言ってたか?」
「『常連さんの行動は全ておみとーしですー。何せ私はあなたの想像を超える力を持ってますー』って」
「……………………」
………………エイプリルフールだ。うん、エイプリルフール。
そして時間は過ぎ、午後十一時五十五分。
俺はおもむろに電話を掛けた。
プルルルルッ! カチャ!
『もしもし、神尾くんですの?』
「ああ」
『こんばんわですの。早速ですが、学校の様子はどうでしたの? あれほど大掛かりな嘘は初めてでしたの。会社の人たちもみんな困惑したましたし。当たり前ですけれどね? ……でも、やはり嘘はあまりいいものではありませんね。……明日お父様が謝罪と粗品を社員全員に配るそうですの。わたくしも学校に謝罪の粗品を持ってくつもりですのよ』
「そうか」
『……神尾くん? どうかしましたの?』
「夜羽が朝、俺と一緒にいたくないと言って、どこかに飛んでったよ」
『え? …………あ』
「何か心当たりがありそうだな」
『え、あ、あの、ごめんなさいですの。その、エイプリルフールの説明をするとき、例え話で言ったことで……』
「でも実際に出て行ったんだ」
『え!? そ、そんな……う、嘘ですよね』
「残念ながら朝言われてからすぐに話を聞こうと思ったら、もういなかった。……夜羽にちゃんとエイプリルフールについて説明できたのか?」
『ちゃんとしましたの!』
「なら、なんで出てったんだ」
『そ、それは……』
「もういい、俺はもうあんたと関わりあいたくない」
「……え? あ、か、神尾く「もう、名前とか呼ばないでくれ。学校でも話すことなんてない」……あ……』
「……話はそれだけだ。もう切る」
「……あ、ま、待ってください……! 謝らせてほしいですの! お願いですから……!」
そう、涙声で東城さんが俺を呼び止めたところで、
日付が替わった。
「はい、ということでエイプリルフールでした」
『…………え?』
困惑した声が返ってきた。
「だからエイプリルフール」
『で、でもさっき嘘じゃないって……!』
「ああ、朝夜羽が出てったのは本当。帰ってきたら家にいたけど」
そこは嘘言ってない。
『………………』
「俺がついた嘘は一つ。怒ってる雰囲気を出したことだけ。……でもまあ、あそこまでのリアクションとられるとは思ってなかったけど」
涙声になったときはめちゃくちゃ焦った。まさか泣かれそうになるとは……そんなに怖かったんだろうか……。
とにかく早く十二時回らないかと思ったもんだ。
『………………』
……返事がない。……怒ったかな……?
「お、おーい、ゆっぴー……?」
『………………の』
「え?」
『よかったですのぉ……ほんとに夜羽さんが出て行ったのかと……ほんとに神尾くんがわたくしと関わりあいたくないと思ってるのかと……よかった……』
……なんか、まずいタイプの嘘だったか……。
「あ、あー……なんか、すまん」
『……いえ、元はと言えばわたくしが悪いですので……。すみません、今日はもう切りますの。安心したら……また……。明日学校でお会いしましょう』
ピッ!
…………ど、どうも泣かせてしまったようだ……。
「明日ちゃんと謝ろ」
電話をしまい、ソファーに座ると、夜羽がやってきた。
「ん、電話終わった?」
「ああ……うん、やっぱり嘘はよくないもんだ」
「? ん、シュンも嘘ついた?」
「少しだけ」
そう言うと夜羽は俺に近づいてきて、
「ん、もうしないこと」
そう、俺の真似をした。
俺は苦笑いを漏らしながら答える。
「わかった。もうしない」
すると夜羽は、
「ん、ならいい」
と言いながら俺の頭を撫でた。
……………………。
「……夜羽。嘘ついて、もうしないことを約束したからといって、頭を撫でる必要はないんだぞ?」
「む、そうなの……?」
嘘のつきすぎに注意しましょう。バチが当たります。
ついでに後書き小話。
次の日の飯田さん。
「おっはよー!」
「おお、飯田」
「あ、瞬君!」
「塾でのテスト百点を祝して、さらに勉強ができるようにテストを作ってきた」
「え、えぇ!? あ、あれはエイプリ「ははは、遠慮するな。存分に勉強してくれ。そしてそのまま塾で百点を取り続けてくれー」ドサッ! 「さらばだー」……ちょっ! ……瞬君の鬼ー!」
終わり。
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