彼の朝からの動揺の話。
久しぶりによく眠れた気がする。
問題が解決した……わけでもないが、多少は解決に向かっているからかもしれない。
……もちろん、まだまだ問題は残ってるし、親切にも気にかけてくれている人たちを騙して、ではあるのだが……。
「……今は仕方ないな……っと、今日から弁当二人分か。…………ん?」
寝ぼけた頭で、弁当を作る時間を考え、早めにベッドから起き上がろうとしたが、自分の体に感じる、普段はない温もりに固まってしまう。
恐る恐るその温もりのある場所を見ると、
「……スー……スー……」
気持ちよさそうに眠っている居候の鳥さん(人の姿)がそこにいた。
…………あ、あれぇ? 昨日夜羽のベッドに俺が運んだはずだったけど。
「…………………………うん、たまにはこういうこともある」
多分、寝ぼけて間違えたんだろう、うん。
……考えるのが面倒くさくなったわけではないぞ。
誰に言うでもなく心の中で言い訳をし、起こさないように静かに台所に向かう。
それから、弁当と朝食の準備が終わるころに夜羽が起きてきた。
「……シュン、おはよう」
「お、おう、おはよう」
朝のこともあり、若干どもってしまった。
「む、シュン。ワタシより早く起きてた」
「なんかまずかったか?」
「ん、シュンはワタシが起こす」
「あー……いや、別に頼んだことでもないし、朝起きないのは休みの日だけだぞ?」
そういえば、夏休みの最中はほぼ夜羽が朝おこしに来ていた。
理由は空腹により、だったが、夜羽の中で若干習慣化していたらしい。
とはいえ学校が始まってから、俺はいつも通りの規則正しい生活に戻ってたため、夜羽の世話になることは最近なかった。
まさか自分の仕事だと思っているとは……。
「むぅ……せっかくすぐ起こせるようにシュンの部屋で寝たのに」
………………ワザとでしたか。
「ふぅ、わかったよ。じゃあ明日から頼むよ。時間は大体……今から一時間前くらいに起こしてくれ」
起こそうとしてくれるものを断る必要もないので、頼むことにした。
「ん! じゃあ、明日からシュンのベッドで眠る」
「待ちなさい」
そこから学校に行く直前まで夜羽の説得タイムだった。
「じゃ、いってきます」
「ん、いってらっしゃい。……今日は早く帰ってくる?」
「まあ学校からは。ただ帰った後も勉強を教えっからさ。またちと遅くなる」
「ん……わかった。でも「わかってるよ。そんなに遅くはならないって」……ん、ならいい。…………帰ってきた後、さっきの続き」
「……まだ納得してくれませんか……」
夜羽の説得タイムは延長戦に突入し、帰ってきた後また始まりそうです。
「あ! おはよう瞬君!」
「うお……飯田……だと……! な、なんだ。今日は……どうした……? なにがどうしてこんなに早く学校に来た」
「うん! そろそろ早く来て勉強しよっかなって」
「なん……だと……! 天変地異の前触れか……!?」
「そこまでいうことないと思うけど!」
ちょっと大げさに言うと、軽く半泣きで返された。……いや、大げさでもないか。
「そんなに怒るなよ。ただのジョークに見せかけた本音じゃないか」
「うぅ……そんなのわかって…………本音!? 今のジョークじゃなくて本音なの!?」
「さて、勉強だ勉強だ」
「スルーされた!?」
……飯田もツッコミがうまくなったなー。
ゆっぴーにはまだ劣るかもしれないが、先が楽しみである。
「はっ! 何か今、不愉快な比較をされましたの!」
東城さんが周りを見渡しながら突然言い出した。
…………すげーな。でも、あそこまでいくと、さすがにちょっとこわい。
「いいからさっさとやるぞ。そのために早く来たんだろ?」
「むぅ……はぐらかされた気がするけど、その通りだ…………あ、そ、その瞬君……? お、お昼、さ……」
飯田は、軽く文句を言った後、思い出したように躊躇いながら言い出した。
「ああ、心配すんなちゃんと持ってきてるよ。昨日はすまんかったな」
「ううん! それはいいの! ……あ、夜羽ちゃんは大丈夫だったの?」
「ん……ああ……問題ない」
「ならいいんだけど……」
突然夜羽のことを聞かれ、若干ごまかすような言い方になってしまった。
「……昼はちゃんと作ってきたぞ。まあ、約束通りテスト期間だけだからな」
「う、うん! ありがとう瞬君!!」
満面の笑みの飯田。
……この前の料理の味付けはそんなに口に合ったのか?
なんか懐かれただけじゃなく、餌付けまでしてしまった気分だ。
ほんとはお昼のお話も一緒に書くつもりでしたが、長くなりそうなので一旦切ります。
それはそれとして、あとがき小話を二つほど。
――とあるマンション七階にて。
「あら、奥さん、どうしたの? そんな不思議そうな顔をして」
「え? あ、お隣さん。いえね? 今日朝、新聞を取りに玄関先までいったら、上の階から話し声が聞こえて」
「どんなどんな?」
「なんか……『早く帰ってくる?』とか『そんなに遅くならない』とか、男女の声で」
「? それのどこが不思議なの? よくある夫婦……まあ、若いがつくけど……の会話じゃない」
「それが……詳しく覚えてるわけじゃないけど、上に新婚さんとか若い夫婦さんとかいたかなって」
「うーん、覚えてないだけじゃない? それに最近同棲を始めたとか、結婚したとか、若い子らにはよくあることよ」
「……それもそうね? なんか考えて損しちゃったわ」
「「あはははは」」
終わり。
玄関先の会話がどう見ても新婚さんのものにしか見えなくて、つい……。
も一つどうぞ。
――会長と副会長の会話2。
「藤森君……」
「何かな……?」
「あたし、まなちゃんより藤森君がこんなに早く学校に来てるほうが驚きだと思うんだ」
「確かに。実際俺自身、単なる気まぐれだったからなぁ。だから皆にも驚かれた」
「……でも神尾君はまなちゃんにしかツッコミを入れなかったね」
「まあ、神尾の中には、俺がこの時間に存在していることさえあり得てないだけかも。……悲しいかな」
「まなちゃんしか見えてない……わけじゃないんだ」
「……今回のは微妙だな。神尾はまだ意識し始めた段階。もうちょっち進展ないと厳しいかなぁ? ……それより、さっきの……どう思う?」
「お昼どうこうってやつ? ……そのままの意味、かな?」
「……いずれにしても、今日の昼休みがカギ、か。そこで何らかの進展ありゃいいけど。っと『見守る会』全員に通達だな」
「昼休みの動向に注意せよ、だね。でも気になるからと言って慎重さを欠かないようにいかなきゃ」
「もちコース」
続く、かな?
次回はクラスのほとんどが注目するお昼休みです。
感想お待ちしております!!