彼女の様子の話。
大変遅くなりまして……。
「すまん、本当にすまん！」
『いーよいーよ、無理言ってるのは私の方だし』
結局、目の前の夜羽の頼みを断ることができず、今日の勉強を教えるのが潰れてしまった。
元々、飯田からの頼みごとだったとはいえ、一度受けたからには、しっかり教えるつもりだったので、いきなり約束をすっぽかすのは少々心苦しかった。
「いや、本当に申し訳ない」
『いいってばー、学校でも教えてもらえるし、ね？ ……それに、瞬君の携帯から連絡が来たことだけでも結構嬉しいし』
「？ なんて？」
『んーん？ それより、私は気にしてないから！ それより、夜羽ちゃんお大事にね？』
……飯田に理由を説明するとき、とっさに夜羽の調子が悪いと言ってしまった。
実際、夜羽はいつもと様子が違うし、嘘ではない……はず。
「ああ、わかった。とりあえず明日必ず埋め合わせするから、何でも言ってくれ」
『え？』
「え？ あ」
……約束反故の心苦しさからか、夜羽を言い訳にしたからか、どうも迂闊なことを言ってしまった。
あー……まあ、明日一日だけだから大……丈夫、か。
『……えっと。……じゃ、じゃー明日のお昼は瞬君の手作りお弁当がいいかなー？ ……なんて』
一瞬、学校でのあだ名の話が頭に浮かび、多少気構えていたが、飯田の返答に、軽く安堵の息を吐く。
「何だ、そんなんでいいのか。そんなんだったら、明日だけとは言わずにテスト勉強の間作ってもいい」
『……え？ え？』
「それじゃあ、今日はすまなかったな。また明日」
『え？ あ、うん、また明日…………え！？ ちょっと待』
プッ！
……飯田の件はとりあえず、よし。
何か言い掛けてたけど、後から埋め合わせは別なのがいいとか言われたらかなわん。
次は、高嶺家……かな。
と、考えてるときに、背中に軽い衝撃が。
「む、デンワ、終わった？」
夜羽だ。
夜羽が背中を軽く押してきていた。
「ん、後少しだけど……いや、後でいいかな？」
俺が後少し、と言うと夜羽はシュンとした表情をしだしたので、少々慌てて後に回した。
……しかし、あれだ。夜羽にそういう表情されると、なんとかしてやりたくなる。
俺はいつからこんなに過保護に……。
「……俺将来、面倒くさがりと言う自分の性格も忘れて、しっかり親バカになりそう……」
ボソッと、自分の将来について呟いてしまった。
とりあえずは言うことを聞いておこうと思っていたが、夜羽は何も言わず、ただ俺のそばに座っていた。
俺が少し場所を移動しただけで、若干不安げな表情を見せる夜羽。
しばらくすると、疲れなのかなんなのか、俺の横に座っていた夜羽は、そのままの状態で、俺にのしかかるように、眠りについた。
ベッドに運ぶため夜羽を抱き上げたとき、ほぼ無意識に俺は、
「……夜羽、今お前が何に悩み、何に恐がり……何を、隠そうとしてるのかは、俺にはわからない。でも……俺はお前のそばにいるんだぞ……？」
そう、口をついていた。
なあ、夜羽？ お前の苦しみとか辛さとか、全ては代わってやれないけど、話すことで、分かち合うくらいは出来るんだ。……それを、わかっているのか……？
俺の腕の中で、すやすや眠る夜羽から、返事はあるわけがない。
俺は夜羽をベッドに寝かせ、静かに部屋を出る。
……ふー、飯田に勉強を教えたり、高嶺家に言い訳考えたり……そんで、夜羽は何かに悩んでる、か……。
最近、次から次へと、色んなことが起こるな、全く。
しかも……面倒くさがっていられないもんばかりだ。
……………………。
「……さしあたっては、とりあえず二つ目の問題を解決しますかね」
そう一人呟き、受話器を取る。
正直、難産でした。
さて、また瞬君は一人で微妙に告白的な言葉を吐きましたが、夜羽への認識としては、家族、なんですかね？
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