彼が傍観する商人の話。
二人目の新キャラでます。
呻きながら机に突っ伏してる藤森は放っておいて、とりあえず東城さんから貰った資料を読み勧める。
しかし、よく出来てる。これと言った違和感はない。……あっさりこれをやってしまう東城家が少し怖い。
――夜羽の両親は早くに他界。父方の親戚に預けられるが、引き取った親戚は、夜羽にまったくの興味も示さず、いる間はただ衣食住を提供するだけ。学校では大した理由もなくいじめが起こっており、それを学校側は見てみぬ振り。
学校にも行けず、家でも相談できる相手もいない夜羽が、偶然母親の遺品の中に古い写真と手紙を見つけ、自分に親戚がいる事を知る。
そして赴くままにその住所を尋ね、俺と出会う。
現在俺は、弁護士のつてを利用して、こちらで夜羽を引き取れないかと、夜羽を引き取っている親戚に話し合いの最中。
で、夜羽はその間学校は休んでいる。
……と、言う設定だ。
ここまで架空の情報を作って、ほんとに夜羽の事が、情報を作った人間に知られてないのか不安もあるが、そこは東城さんを信じるしかない。
そんな事を考えていると、死んでたかと思った藤森が復活してた。
「神尾ー、暇だー」
……こいつは勉強する気はゼロか。
もう、ダメだな。
「そうか」
「…………………………」
「…………………………」
「冷たい……」
「…………………………」
相手にしないほうがよさそうか。
「うへぇー、無視だ……もういいさね。おーい、たなぽんやーい……」
藤森が俺から標的を田中祐樹に変えた。
いや、標的と言うよりは……。
「なんですか? 藤森君」
「いつもの、ある?」
やはり、目的はそれか……。
「本日は何系をお探しで?」
「おう、今はジャ〇プ系の気分!」
「かしこまりました。ではこちらからどうぞ」
そう言って田中はどこからか袋を取り出し、藤森はその中から何かを取り出した。
取り出したものも小さな袋詰めになっているが、恐らく漫画本なんだろう。
もちろん校則違反ではあるが、普通はそんなにコソコソするもんでもない。
しかしこれには少し訳がある。
「サンクス! たなぽん」
「いや、気にしないでください。……ふぅ、それにしてもおなかすいたな……」
「お? どうしたんだ?」
「いえね? 朝ごはん食べ損ねまして。で、もうすぐお昼じゃないですか? でも今気づいたら財布の中が空っぽで……」
「なんだい、そんなことなら、俺が奢ってやるよ。ほら五百円」
「いいんです? ……ありがとうございます」
…………今の場面だけ見たら、普通の友達同士の会話だけど、要はあれ、さっきの漫画本数冊の代金である。
田中はどこから仕入れてくるのか、色んな物を持っている。
それで、軽く商売をしてる。
うちの学年で、一部の生徒にしか知られて無い田中商店。
――ちなみに、机の上に筆入れを開いて出しっぱなしにしてれば、開店中、閉じてるか仕舞ってあれば、閉店中だ。
今回のあれも、暇な藤森が漫画を借りたんではなく、安く買ったわけだ。
と言っても、一度も代金を請求してない。――あくまで、偶然、物をあげた後に、善意の行為を受けてるだけ。
田中に何か貰ったら、必ず礼をする。これはこの学年の一部生徒たちの暗黙の了解だ。
もちろん金銭のやり取りなので、先生にはバレないようにしてる。
でも、クラス委員長辺りには知られていて、東城さんはいつも注意したりしている。
「田中くん! また校内で商売を行なってますの!?」
「いいえ、東城さん。僕は一度も商売はしてませんよ? 今のはいらなくなった漫画を藤森君にあげただけ。その後のお昼の話は別の話です」
「むぅ……!」
「すみません、東城さん。僕はこれからテスト勉強をしなければいけません。ですから今回、漫画を処分したんです。最初は皆と同じ様に東城さんに勉強を教えてもらおうとしましたけど、それじゃだめですもんね」
「え? あ、ええ、いい心がけですの」
まあ、いつもいい感じにあしらわれてるけど。
「それはそうと東城さん、もしかして数学のノート、もう一杯ですか? 数学なのに英語のノート出してましたから」
「え……まあ、買いに行き忘れまして」
「僕、新品のノート持ってますよ? 使ってください」
「え、本当ですの? 助かります。……今回は仕方ありませんの。立替と言う事でお金を……」
「いや、いいですよ。余ってたノートですし。気にしないで下さい」
「いえ、それではわたくしの気が済みませんの……!」
「じゃあ、こうしましょう。今度僕が困ってたら少しでいいんで助けてください。それで貸し借り無しって事で、ね?」
「……では今何かお困りでは?」
「ええ? 今ですか? そうですね……しいて言うなら、前に休んでしまった部分の勉強が出来ないこと、ですかね?」
「ではちょうどいいですの! わたくしのノートをお貸しします!」
「え? ……いいんです? それはすごく助かるんですけど……東城さんもテスト勉強があるんじゃ……」
「わたくしは帰ってからやりますので、放課後までに返していただければ問題ありませんのよ?」
「それじゃあ……お言葉に甘えさせてもらいます。放課後にはお返ししますね!」
「ええ、勉強頑張ってください」
そう言って東城さんは貰ったノートを手に、ホクホク顔で自分の席に戻って行った。
………………あしらわれるどころか、ちょっと利用されとる……。
今のは、田中がお金よりも重要度の高いものを手に入れただけじゃないか。
東城さんのノートは、授業の内容をただ書くだけでなく、要点などをきれいにまとめ、復習もしやすく読みやすいものだ。
以前のテスト前の田中商店の価格では、結構な取引が行なわれたそうだし。
……面倒くさいから気にしないでいよう。
誰に迷惑が掛かるわけでもなし。
そんな事を考えていると、
「瞬くーん! べんっきょうおせーてー」
飯田が笑顔で近づいてきた。
……まったく、少し自分一人で勉強すると言う考えは無いのか?
「……いいんだけどさ」
俺は軽くため息をついて、勉強を教える準備に入った。
はい、でました。
今の時点では対して出番はありませんが、修学旅行中は、稼ぎ時なので結構出るかもしれません。
感想お待ちしております!