終幕
上着のボタンを外し、ネクタイを寛げるリムにリゼナは全力で抗ったものの、敵うわけもなく仮眠室に引き摺り込まれた。
「ちょっ…………ヴァイオレット隊長!」
「その呼び方やめない? 僕は君の隊長じゃないし。あの時はリムって呼んでくれたじゃない」
誘拐された孤児院の地下室でのことを指摘され、リゼナは恥ずかしくなる。
「あ、あの時は必死で……!」
リムは仮眠室のベッドにリゼナを優しく横たえる。
自分を真上から見下ろすリムにリゼナは囚われたような錯覚を覚える。
「必死になりなよ。これからも僕に」
ベッドに押し倒され、沈んだ身体にリムの温もりと重みを感じてリゼナは震えた。
恐怖からの震えではなく、歓喜だ。
彼の存在を近くに感じ、喜びを覚えた。
経験したことのない甘い疼きが足先から這い上がって、身体が熱くなる。
一生この人の側にいる決心は正直まだつかない。
だが、今この瞬間、リムの側にいられることに幸せを感じてしまっている自分がいるのも確かだ。
「リゼナ」
耳朶を震わせるくらい甘い声で名前を呼ばれ、リゼナは胸がいっぱいになる。
彼から距離を取りたいとは思わない。
だけど、やっぱり展開が早すぎる。
「あの……まずは恋人からでお願いします」
近づいてくる綺麗過ぎる顔をやんわりと押し返すとリムは不満そうは顔をする。
「この期に及んでそれが通じると思ってる?」
「物事には順序があるんです! 普通は過程も含めて楽しむものなんです! 私が欲しいなら過程はすっ飛ばさないで下さい!」
リゼナは強気で主張する。
「…………分かったよ。君は順序に拘るからね」
「ご理解頂き感謝します」
納得はしていなそうだが、リムはリゼナの身体を引き起こすとそのまま抱き締める。
「だけど、君を手放す気はないよ。覚えておいて」
「後々になって『やっぱりいらない』はなしですよ」
クスっと二人で笑い合う。
リゼナの知る彼はほんの一部だ。
もっと彼を知りたいと思うし、同じ時間を過ごしたい。
彼がどんなに危険な人物と言われようが、私は彼の味方でいたい。
彼が理想とする魔女魔法使いと人間が均衡を保ちながら共存する世界を一緒に目指したい。
今回の事件でリゼナは未来ある子供達は分け隔てなく手厚い支援が必要だと考えるようになった。
身寄りのない子供達や親から虐待を受け、居場所のない子供達も一般家庭の子供達と同じような支援が必要だ。
リムの側にいればその手伝いができるかもしれない。
「何を考えてるの?」
唇を尖らせたリムが言う。
「あなたの側にいる決心を固めようとしているところです」
「それは早急にお願いしたいね。僕の気は長くないから」
そう言ってリムは柔らかい笑みを浮かべる。
そんな表情がとても愛おしく思える。最初は怖い人だと思っていたのに。
大きな手が頬滑り、指が顎にかかり、上を向かされる。
二人はどちらかともなく、顔を近づけ唇を重ねた。
人生は何が起こるか分からない。
小説のような出来事も起これば、小説以上に奇妙な出来事も起こったりする。
これはとある一冊の本をきっかけに出会う男女が心惹かれ合い、心通じるまでを描いた物語。




