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本当の姿

「…………え? どうして……色が……」


 リゼナは鏡の自分を凝視する。

 鏡の自分の瞳の色に釘付けになった。


「もともと君の瞳は金色みたいだね。そうじゃないかと思ってた。君の魔法はベアトリーチェの魔法に対抗できるほ強いし、使用法も多い。下位の者は魔法の使用法が少ないし、君みたいに仕事だからといっても一日に何回も使えない。君は強い力を巧みに操れる優秀な魔女だ」


 リムの言葉にリゼナは驚きを隠せない。

 

「君を下位の魔女だと舐める者も、地味な女だと軽んじる者もいなくなる。これが本来の君の姿だからね」


 リムは事務課での一件をリゼナよりも気にしているようで、療養中に聞いた話だが、リゼナのドレス選びに熱が入っていたのもリゼナを舐めているエカテリーナや地味な見た目のリゼナを軽んじる男達の鼻をへし折りたかったかららしい。


 つまりはリムの自己満足のためにリゼナは振り回されたといことだ。

 何故なら、リゼナは大して気にしていなかったからだ。


 リムがリゼナの代わりに男性職員を言い負かしてくれたことでリゼナは十分気分が良かったので、そこまでしてやろうとは思っていなかった。


 リムの執念深さを垣間見た瞬間である。


 リゼナはリムに鏡を返すと乱雑に机の引き出しに戻した。

 

「私が金の瞳の魔女だと知られたら……面倒なことになりそう……」

 

 この国には魔女の敵がいる。

 魔女を狙ってその力を利用しようとする危険な輩だ。


 リゼナのように力のある非攻撃系の魔女は特に狙われやすい。

 今後の身の回りには気を付けなければならないだろう。

 そうなると、この眼鏡はかけていた方がいいかもしれない。


 リゼナは眼鏡をかけた状態でなら何度も鏡を見ている。

 だけど、自分の瞳の変化に気付かなかったということは……。


「この眼鏡、瞳の色が変わって見えるように細工がしてあるんですね?」

「よく分かったね」


 リムが微笑む。

 

 リムは最初から分かっていてこの眼鏡をくれたのかもしれない。


「ありがとうございます。この眼鏡、大事にしますね」

「別に外してもいいよ」


 お礼を言うリゼナにリムは言う。


「これからのことを考えれば、目の色は隠す方が無難です。私はあなたのように強くありませんから」


 何かあれば自分の身すら守れるか分からない。

 瞳の色については秘密にしておいてもらうのがいいだろう。


「僕が側にいるのに、誰が君に手を出すんだい?」

「え?」


 リゼナはその言葉に思わす聞き返す。

 

 側にいるって……どういうこと?


「鈍すぎじゃない? この新聞の意味が分かったからここに来たんじゃないの?」


 リムは新聞に視線を落として言う。


「僕はこの新聞で君が僕の恋人同然だって国中に公表したんだよ」

「…………っ!」


 分かってはいた。

 だけど、こうもはっきり言われると尻込みしてしまう。


 リムはリゼナの腕を引き、再び華奢な身体を腕に閉じ込める。

 

「世の中は悪人だらけだからね、怖いでしょ。だから僕が守ってあげる」

「誰よりも悪人のような人が何言ってるんですか」


 リムの腕の力が強まり、リゼナは苦しくて身じろぎしながら言う。

 だけど、腕は緩まず、益々強くなった。


 絶対に逃がさないと言われているようで、胸がどきどきと脈打つ。


「僕は誰よりも強い悪役だからね。誰よりも君を守れる。誰にも渡さない。誰にも手出しさせない。だから安心して僕の側においで」


 腕の力が緩み、身体が少しだけ離れると、頬に大きな手が添えられた。


「っ…………!」


 ぐっと近づいたリムの顔に息を飲む。

 ほんのりと頬を染めて、熱っぽい瞳が蠱惑的に揺れている。


「ねぇ、リゼナ」


 蕩けるような甘い声でリゼナを誘う。

 こういう時、あえて告白をしないのがリムっぽい。


「この前言っていた『キスしたいのは君だけ』って言葉、あれは本当ですか?」

「本当だよ」


 リムは真面目な顔で即答した。


「あの言葉を告白だと思って受け取っておきます」


 リゼナはそう言って踵を浮かせた。

 リムの温かい唇に自分の唇を触れ合わせる。


 本当に少しだけ、掠めるだけの曖昧なキスをしてリゼナはすぐに身体を離した。


悔しいことにリゼナはリムに惹かれている。

最初はただの憧れだった。


惚れたのは事務課での一件でリムが男性職員を

言い負かしたあの瞬間。


かなり早い段階でリゼナは心を奪われている。


そしてリゼナの恋心はリムに見透かされている。


惚れた弱味っていうのよね、これ。


拒みたくてもリゼナはリムを拒むことはできない。


 リムは何が起こったのか分からず、呆然としている。

 少し間抜な表情をしたリムを見ると胸が空いた。


 ずっと振り回されてきたのだし、これからもそうなるなら、これくらいの意地悪は許されるだろう。

 少し恥ずかしいが、普段見られないリムの表情を見ることができて満足だ。


 リゼナはリムから離れて踵を返す。

 もう始業時間を過ぎている。

 早く戻って上司やみんなに遅刻を謝らなければならない。


「それじゃあ、私はこれで………っんん」


 腕を強く引き寄せられ、再びリムの腕の中に舞い戻ったと思ったら唇を塞がれた。


「ふっ……ンっ……」


 押し当てられた唇がその感触を味わうように動き、離れたと思ったら角度を変えてまた口付けられる。


 唇と唇の間からくぐもった声が漏れ、二人きりの室内に静かに響く。


「はぁっ……」


 唇が離れる頃には息が上がっていた。

 苦しくて思わずリムの上着を握り締めるリゼナをリムは抱き締め、耳元で囁く。


「言ったでしょ。一度キスしたら最後まで止めないって」



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