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一般的な恋愛観

「世間話ができるくらいの関係になれたら二人で食事をしたり、出掛けたりして相手のことを知るんです。回数を重ねて、相手からの好意を感じ取ることができ、自分もその気持ちがあれば、そこで告白です。お付き合いを始めて、手を繋いだり、抱擁をして、互いに気持ちが通じていればそこでようやく唇に触れられるんです。順序があるんです。順序が」


「それが普通? 君、恋愛小説の読み過ぎじゃない?」

「これは本の影響ではなく、世間一般の話です。世の中のほとんどの男女はきちんと手順を踏んで関係を築いているんです」


 リゼナは真面目な顔で言う。

 恋愛下手のリゼナだが、世間一般の感覚は持っている。

 全ての過程をすっ飛ばしてキスを強請る男性はごく少数だし、そういう男性に碌な人はいない。


「ふーん。それが世間一般の手順なら僕と君の場合ならキスからでもいいと思うけど?」

「ちょっと、今の話からどうしてそうなるんですか?」


 話が通じていないらしい。

 リゼナの頭はますます重くなる。


「だって、君の人となりは知ってるし。君が僕に好意があることも知ってるけど」

「なっ…………!」


 衝撃的なリムの発言にリゼナは目を見開いた。

 最も知られたくなかったことを言い当てられて、リゼナは顔が熱くなる。


「互いに好意があれば次に進んでも良いんでしょ? 君は現にこうして僕の膝から降りたがらないし、触れても嫌な顔一つしないじゃない」


 嫌な所を突かれた。

 身体が怠くて動くのが億劫だというのもあるが、リムの側は心地良い。

 シャツ越しに感じる温もりとふわりと漂う爽やかな甘さの香水がリゼナを包み、離れがたくさせる。


「………………私じゃない方が良いって言ったじゃないですか」


 抱くならリゼナじゃない方が良いとリムははっきりそう言った。

 ということはキスを強請る相手は自分でなくてもいいということにはならないのか。


「それは単なる性衝動で女が欲しい場合だよ。そういう時は後腐れなく一度きりで終える相手が望ましい。でも、君とはそういうわけにはいかないからね」

「…………何故です?」

「君とギクシャクしたくないから」


 それは私とはギクシャクした関係になりたくないってことですよね?

 良好な関係でいたいってことですかね?


 リゼナの疑問に答えてくれる者はいない。


「…………キスをすれば、性欲かそれ以外か判断できるんですか?」


 ここで自分が折れてしまえばそれで済む気がする。

 リゼナは早くこの意味が分からない問答を終えたくなり、思考が鈍り始めた。


「たぶん」

「…………たぶんってなんですか。不確かなことに自分の唇を安売りしたくありません。そもそも、何で私なんですか?」


 最大の疑問はそこだ。

 彼なら自分が足元にも及ばない魅力的な女性からのお誘いがいくらでもあるはずなのに。


「面白いからかな。見ていて飽きない」

「………………」


 リゼナは言葉を失う。

 

 甘い言葉を期待していたわけではないが、もう少し違う答えが返ってくると思っていたリゼナは肩を落とす。


 他の女性とは違い、珍妙だといいたいのだろうか。

 

「コロコロ表情が変わるところも、次はどんな表情になるのか気になるし、見ていて飽きない。意外とはっきり物を言う所とか、弱いくせに僕のことを守ろうとする愚かな所とかは実に愉快」


「………………」


 喜んでいいのか、悲しめばいいのかリゼナには分からなかった。

 胸の中に虚しさがじわじわと広がっていく。

 

 仮にもキスをしたい相手ならもう少し甘い言葉を囁くべきではないだろうか。


「特に好きなのはこの瞳」


 リムはそう言って目にかかりそうな長い前髪を払う。


「僕を熱心に見つめる君の目……堪らない」


 艶のある声が耳に響き、背中にぞくりと甘い疼きが走り抜ける。

 リムは徐にリゼナに顔を近づけた。


「こんな気持ちになるのは初めてなんだ。よく分からないけど、他の女の顔をどんなに覗き込んだってこんな風にはならないし、邸から断りなくいなくなって無性に顔が見たくなるのも、キスがしたいと思うのも、君だけ」


 熱を帯びた金色の瞳がリゼナに迫る。

 その熱に浮かされるようにリゼナの身体もじんっと熱を帯びた。


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