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不法侵入者

 がたっと身体が小さく振動を感知し、リゼナは瞼を持ち上げた。

 疲労が抜けないためか、まだまだ瞼も身体も重く、動くことが億劫に感じる。


 何だか肌寒さを感じて手探りで蹴ってしまったらしい毛布を探す。

 手を伸ばして触れたものを掴んで自分の方へ引っ張った。

 そしてその質感に違和感を覚えた。


 硬い? 毛布なのに?


 薄っすらとした視界の中に見知った顔が映り込む。

 艶やかな黒い髪と金色の瞳が印象的な美しい顔をした青年はリゼナを見下ろし、口元に笑みを浮かべていた。


「ヴァイオレット……隊長……?」


 夢か。寝る前に彼のことを考えていたせいだ。

 ちょっと待って。夢にまで出て来るなんて私、どんだけ彼を意識してるのよ。


 リゼナはもう一度眠りにつこうと瞼を閉じる。


「僕の手を握ったまま寝るのかな? 別にいいけど」


 意地悪っぽい台詞にリゼナははっと覚醒した。


「えっ⁉ えぇっ⁉」


 リゼナは辺りを見渡し、そこが自分の部屋ではないことに気付いた。

 

「おはよう」

「おはよう、じゃないです! どうして⁉ 私、部屋で寝ていたはずなのに……」


 しれっと目覚めの挨拶をするリムにリゼナは言った。

 

 確かに部屋で寝ていたはずだ。

 なのに何でこんな所にいるのか。

 外は暗くてどこを走っているのかは分からないが、間違いなくここは馬車の中だ。

 何度も乗ったから間違いない。


 しかも馬車の中でリムの膝の間に腰を降ろし、リムに寄りかかって寝ていたらしく、ますます状況が理解できない。


「あなた、また勝手に人の部屋に入ったんですね⁉」

「返事がなかったから。ノックはしたし、声も掛けたよ」

「返事がないからといって、勝手に入るのは非常識です! 」

 

 何故批判されているのか分からないとでも言いたげな表情のリムにリゼナは言い放つ。


 小説でもたまに見かける。

 悪者が家屋に訪問という体を取り、押し入り、金品を奪う場面。

 または、組織から逃げた裏切り者を探し出す場面。


返事はないのに問答無用で不法侵入する悪者。


 悪者と同じような所業をリムは息を吸うようにしてみせるということは……ということは、だ。


 顔が良ければヒーローになれるわけではないことの証明になる。

 例え、国で一番の魔法使いでも、どれだけ見目麗しい顔がついていても、やっていることは悪役のすることだ。


「やってることは人攫いですよ」


 お気に入り小説の黒騎士様に似ているせいで、無意識にヒーロー像を押し付けてしまっていたことにリゼナは心から反省する。


「とにかく、今後は―――」

「仕方ないじゃない。すぐに会いたかったんだから」


 リゼナの言葉を遮るようにリムは言う。

 その言葉にリゼナは思考が停止する。


 ん? この人は今、何て言ったのかしら?

 聞き間違いよね? 聞き間違いでないのなら、きっと私が想像するような甘い意味合いではなく別の理由があるはずだわ。


「えっと……それはどういったご用件でしょうか?」

「何でそんな事務的なの?」

「じゃあ、どうしたんです? 何かありましたか?」

「何もないけど?」


 リゼナの中で混乱が深まる。

 それなら、一体どうしたというのか。


「じゃあ、どうして私に会いたいなんて……」

「理由って必要? 顔が見たかっただけだよ」


 小首を傾げるリムにリゼナは再び思考停止を余儀なくする。

 


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