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最上級の感謝を

「僕からの感謝が欲しい?」


 リムはリゼナの頭を鷲掴んだまま小首を傾げて言う。

 顔には誰もがうっとりするような極上の笑みが張り付いている。


「調子に乗ってすみませんでした」


 リゼナは即答した。


 調子に乗った発言だったと自覚しているし、反省もしている。

 だからそろそろ頭を放してくれないだろうか。


「質問の答えになってないけど?」

「感謝でしたら他の方々から頂きましたので大丈夫です。間に合ってます」


 実際、国王陛下やアルノーアを始め、騎士団の人達からはとても感謝され、何度もお礼を言ってもらった。

 騎士団のみんなにはこちらが感謝を伝えたいほど助けられた。


 自分の力が役に立って、感謝されるのは気持ちがいいもので、自分は既に満足している。


 ただ、さっきのリムの発言が癪に障っただけで、本気でリムから感謝の言葉が欲しいわけではない。


 それにリムのおかげで視力を取り戻したのだから、これで貸し借りなしでお願いしたい。

 

 そんなことを考えていると、室内が異様な静けさに包まれていることに気付く。

 そして寒気がした。

 底冷えするような冷気にリゼナは顔を上げる。


「へぇ。僕より先に誰が君に感謝したの?」


 頭を掴まれ、固定されたままリムがずいっと顔を近づける。

 顔は笑顔を張り付けているが、その金色の瞳は笑っていない。


「そ……それは……ケイトさんや、五番部隊の皆さん……団長や先ほど陛下からも感謝のお言葉を頂きましたし……」


 リゼナは何故こんな風に凄まれているのかを頭の隅で考えながら答えた。


 するとリムは目を点にして長い睫毛を大きく瞬かせた。


「……感謝って、本当にただの感謝? 言葉だけ?」


 リムはぱっとリゼナの頭から手を放し、リゼナを解放する。


「だけって……言葉だけで充分ですよっ」


 リゼナは乱れた髪を整えながらリムを睨む。


「それともあなたからは言葉じゃない何かを頂けるってことですか?」


 リゼナはあえて挑発的な言い方をする。

 別にそれを望んでいるわけじゃないが、みんなの前でこんな風に頭を鷲掴みにする仕打ちをされた仕返しである。


 すると、リムは口角を引き上げて色っぽく目を細めた。

 その妖艶な笑みにリゼナは胸がざわつく。


「へぇ。この僕に厚かましくもお礼の催促をするのは君が初めてだよ」


 そう言うとリゼナの細い指を揃えて優しく取り、口元に引き寄せた。

 白い指先に唇が感触を残すようにしっかりと押し当てられる。 


「っ…………⁉」


 リゼナは突然のことに声にならない悲鳴を上げ、指先に口付けるリムを凝視すると、上目遣いでこちらを見るリムと目が合う。


 優しく触れるリムの体温、しっとりと柔らかい唇の感触、心を絡めとるような凄艶な眼差し、その全てがリゼナを酩酊させようとする。


 急激に体温が上昇し、身体の熱が顔へと集まるのが分かった。

 みんなの視線が自分とリムに集中し、余計に恥ずかしさが増した。


 リゼナは頬を紅潮させて、呼吸を忘れて、わなわなと唇だけを無意味に動かす。

 

 振り解きたくても動かない身体が恨めしかった。


「いっ……たっ⁉」


 中指の関節付近に痛みが走った。

 突然の皮膚を突き破るような鋭い痛みにリゼナは反射的に手を引こうとするがリムの手を振り解くことはできず、ただ混乱する。


 リゼナが混乱していると、それを面白がるように目を細めるリムがいた。

 

「君に最上級の感謝を」


 リムはリゼナを真っすぐに見つめ、チロっと赤い舌を覗かせて艶っぽい笑みを浮かべた。


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