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見過ぎるな、危険

 リゼナとリムは一度邸に戻り、朝食と身支度を済ませて再び王宮へと戻って来た。

 深夜から今の時間までずっと起きていたことと、連日事件続きでまともに眠れていないため寝不足だ。


 それだけでなく、早朝の一件が尾を引き、リムの顔がまともに見れない。

 

 『眼鏡があろうが、なかろうが、君は変わらない。こんなもの一つでグラグラする奴なんか、放っておきなよ』


 この言葉の意味が分かる人がいるだろうか。

 よく考えれば、何だかそれっぽい台詞に聞こえなくもないのだが、どう思われるだろうか?


 リゼナは心の中で世の女性陣に問う。

 しかし、答えてくれる声はない。


 しかもこの台詞をとびっきり艶のある声と熱っぽい眼差しで囁かれれば、自分のように男性慣れしてない女性が激しく動揺するのも同然では?


 思い出しただけ、まだ顔が熱くなるリゼナに対し、リムは普段と変わらず平然としている。

 リムが全く意識せずに何となくで発した言葉であるならば、リゼナは気にするだけ無駄である。


 ちょっといい夢を見たと思って忘れるより他ないのだが、忘れるためにはまだまだ時間を要する案件だ。


 眼鏡で顔を隠せるという点ではこの眼鏡にありがたみを感じている。


「ねぇ」

「何ですか?」


 リムに話しかけられたリゼナは可能な限りいつも通りに接した。


「さっきから下ばかり向いてるね」

「そうでしたか?」


 リゼナはしれっと答える。


「僕の顔も見ないね。どうして?」


 バレていた。

 リゼナがリムを意識して顔を見れないことが。


「太陽を直視するのってキツくないですか?」

「それって君にとっての僕が太陽って比喩?」


 リムはおかしそうに笑う。

 豪快ではない、小さな笑みだが、彼はとても楽しそうに見えた。


「視界に入れると危険って意味です」


 リゼナは笑みを浮かべるリムが眩しくて視界を手で遮って見せた。

 リムはそんなリゼナの反応もおかしいらしく、クスクスと笑い続ける。

 その顔はまるで少年のようにあどけない。


 やっぱり、この人は私のことなんて何とも思ってないわね。


 笑い続けるリムを見てリゼナは確信する。

 普通は意中の女性に対してこんな風に笑わないだろう。


 そうなると意識している自分が途端に馬鹿らしく思えて、リゼナはどっと疲れてしまう。


 だけど、こんなにもリムの素敵な笑顔を間近で見られたことだけは良かった。

 何せ、顔が良い。

 それこそ、彼の笑顔は眩しい。

 太陽というよりは月が似合う。どちらにしろ、眩く美しい雲の上の人だ。


 

*********

 


 仕事に穴を開けるわけにはいかないのでいつもと同じ時間に出勤し、仕事に取り掛かる。

 職場まではリムが送ってくれたので要らない注目を集めることになり、疲労が重なる。

 職場に着いても先日のパーティーでリムの隣を歩いていた女がリゼナであることは誰も気付いていないようで、誰からも追及されることはなかった。


 変わったことといえば、エカテリーナが職務怠慢他でクビになり、事務課長が辞職したことだ。


 エカテリーナに惚れ込んでいた男性職員は意気消沈していたが、彼女からいいように使われていた職員や、目に余ると感じていた職員は清々しい表情で職務に勤しんでいた。

 

 風通しの良くなった職場が少しだけ心地よく感じ、リゼナも気持ちよく仕事ができることが嬉しいと感じた。


 グレイに関しては新聞で大々的に報じられていたので、皆がざわついていた。

 こればかりはほとぼりが冷めるまで待つしかなさそうだった。


 


 

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