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アルノーアの憂鬱

 え、何……今の光景?


 アルノーアは通路の影から三人のやり取りを見て、呆然と立ち尽くす。

 

 何? 今のやり取り。え、もしかして本当にそういうことなの?


 不測の事態に思考がまとまらない。衝撃的な光景を前に自分の思考回路はショート寸前……というか、ショートしている。断線している。


 リゼナの目が治療により見えるようになったという話は既に聞いていた。

 ミオーナ達と話をしている最中に、リゼナがどうして眼鏡をかけているのか気にはなったものの追及はしなかった。


 リゼナの素顔があの顔が歪んで見える眼鏡からは想像でできないほど美しいこともアルノーア達は知っている。


 リゼナが美人なあまり、リムの邸で部屋に押しかけた際には面白いくらいに皆が視線を奪われた。


 きっと眼鏡を外した彼女はこれから男からの誘いも増え、そこらの男では手の届かない存在になるのだろうとぼんやり思っていた。


 厚底レンズの向こうがこんなに愛らしく、美しいとは誰が思っただろうか。


 見違えた彼女の姿に職場の男達がドギマギする様子が目に浮かんだ。


 しかし、今の光景を目にしてしまい、彼女の人生はあらぬ方向に傾いているような気がしてならない。


『本当は必要ないんですけど』って言ってたよな? 


 眼鏡はもう必要ないと言って眼鏡を外す決意を固めた彼女にリムは何と言っただろうか。


『ダメだよ』と言っていなかっただろうか。


 ダメだよって何? え、眼鏡外しちゃダメってこと?

 僕以外にその素顔を見せないでってリムの独占欲の現れ?


『眼鏡があろうが、なかろうが、君は変わらない。こんなもの一つでグラグラする奴なんて放っておきなよ』


 この発言も要約すると『眼鏡があっても君の良さは変わらないんだから、眼鏡一つで心変わり(眼鏡していた時は見向きもしない)するような奴は相手にするな』ってことだよな?

 

 しかもあの距離感…………ほとんど後ろからの抱擁だろ。


 他人が見ていないのであればともかく、他人の前であれだけ女性に近づくということは独占欲の現れで、同時に男に対する牽制だ。


 意識してるのか、無意識なのかは分からないがアルノーアにはリムがリゼナに対して特別な感情を抱いているのは間違いないと確信した。


 天変地異か、この世の終わりか。はたまた、俺の人生がここで終わるのか……。


 あのリム・ヴァイオレットが一人の女性に恋をした。

 それはアルノーアにとっては喜ばしくもあり、怖くもある。


 あのどうしようもなく自分勝手な性格が丸くなるなら嬉々として喜びの舞でも踊りたい気持ちだが、リゼナの存在が余計にリムを殺人火葬暴走列車と化す場合もある。


 いや、喜べよ、俺。祝えよ、俺。

 後者にならないように彼女にはしっかりと手綱を握ってもらうしかない。


 その代わり、俺が団長であるうちは可能な限り彼女に敬意を払い、尊重し、困ったことがあれば協力することを誓おう。


 彼女は五番部隊の……いや、騎士団にとってもリムの災厄から守ってくれるお守りになるはずだ。


 アルノーアは心の中で勝手にリゼナに誓いを立て、リムの面倒を押し付けることにした。


 そして視線の先にいる現実を受け入れきれずに固まったセスナに同情した。

 

 恋に奥手で、好きになった女性がみなこぞってリムを好きになるものだから、セスナは恋愛面でもリムに敗北している。


 リゼナはリムに惚れているようには見えず、むしろリムに振り回されていて困っているのではないかと考えていたセスナだが、この恋は分が悪すぎだ。


 諦めろ、と心の中で呟く。


 とりあえず、あの虚しい背中になんと声をかければいいものか。


 アルノーアは通常業務よりも部下のメンタルケアの仕事の方が多い気がして頭が重たくなった。

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