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危機

「きゃあぁぁ!」


 リゼナの悲鳴が路地に響く。

 放たれた鋭い鎌を何とか除け、走り出す。


 ヤバい! あれ、人間じゃない!


 七人の小人はまるで身軽な動物のように壁や地面を蹴り、高々と飛躍し、リゼナを追いかけて来る。


 リゼナを狙っているのは鎌を持つナミトだけかと思えばそうではなく、全員総出でリゼナを狙っているようで、血濡れの斧や、鍬も飛んでくる。


 もつれそうになる足を必死に動かし、リゼナは人気のある場所を目指して走った。


 必死に逃げ惑うリゼナを嘲笑うかのように小人達は歌う。


『捧げろ、捧げろ。赤い心臓。魔女の心臓。待ってる僕らの白雪に』


「白雪って誰よ⁉」


 人の心臓が欲しいだなんて趣味が悪すぎるんじゃない⁉


 リゼナは口には出さず、心の中で絶叫した。


 次第に体力の限界が近づき、走る速度が失速してくる。


「もうっ……だめ……無理っ……!」


 ぜーぜーと呼吸を乱しながら、走り続けるものの、段々と小人達との距離は縮まるばかりで逃げ切れる気がしない。


『心臓、心臓。もらうよ、心臓』


 すぐに耳元で声がして、リゼナは反射的に振り向いた。


 被ったフードがふわりと取れた。

 小人の顔を間近に捉えた瞬間、息を飲んだ。


 目は潰れ、皮膚は焼かれたように爛れていて、思わず目を逸らしたくなる。

 『醜い』と表現したくなるような、そんな顔だった。


 小人の容姿に気を取られている間にリゼナ目掛けて鎌が大きく振り上げられる。


 逃げたい、怖い。

 でももう逃げられない。だって距離が近すぎる。


 こういう時、攻撃系の魔女だったらどんなに良かったことか!


 まだまだ読みたい本が山ほどあるのだ。

 今、抱きかかえている鞄の中にも読みかけの本が入っているし、自室の机の上には新書が山になっているし、読み返したい本も沢山ある。


 そもそも、何で私なのよ!


 

 今世に未練たっぷりなリゼナに血濡れの刃が迫り、ぎゅっと目を瞑った。


「死なれては困る」


 どこかで聞いたことのある声が聞こえ、同時に身体が何かに包まれるような感覚を覚える。


 きつく閉じた瞼の向こうが明るくなり、リゼナは恐る恐る目を開けた。


 リゼナは目の前に広がる光景に言葉を失う。


 赤い炎が揺らめき、リゼナ達を取り巻いていた。

 肩を抱くように回された逞しい腕はリゼナをしっかりと支えていて、自分は誰かの胸に顔を押し付けている。


 顔を持ち上げるとそこには見覚えのある青年の顔があった。


 赤い炎に照らされて黒い髪が少しだけ明るい色に見えるが、間違いない。

 

 黒い髪に、凛々しい面差し、長身ですらりと長い手足、騎士団の制服が抜群に似合っている。


「あ……あなたは…………」


 リゼナの声に青年がゆっくりと視線を向ける。


 図書館では伏せられていて見えなかったが切れ長の目が怜悧な印象を与える。

 驚くべきは長い睫毛に縁どられた瞳の色だ。


「この炎……金色の瞳……あなたは、まさか…………」


 リゼナは絶句する。


 図書館で見かけるリゼナの憧れの人。

 それがかの有名な騎士団の危険人物、リム・ヴァイオレットだなんて。



 


 




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