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隊長の変化

「リゼナさんの怪我はどうですか?」


 救護馬車から一人で降りてきたリムにケイトは問う。


「魔法薬が効いてるから痛みもないみたい。傷は思ったより広範囲だったけど、痕は残らなそうだ」


「それは良かったです」

「今は救護馬車の中で休んでる。初めてこれの存在意義を見出せたよ」


 そう言ってリムは背後の救護馬車を指さす。

 

 リムが部隊長就任時に新調したものの、今まで出番がなかった救護馬車もやっと日の目を見ることができた。

 

『この程度で負傷し、動けなくなるような弱者は僕の部隊には不要』


 とある戦闘でリムが隊員達にかけた言葉である。

 それ以降、五番部隊は戦闘で負傷し、戦闘不能になれば隊長に切り捨てられるという恐怖から猛特訓し、体力や筋力はもちろん、剣技や武術にも磨きをかけ、瞬く間に騎士団一の戦闘部隊へと成り上がった。


 しかし、訓練や戦闘に怪我はつきもの。

 戦闘に救護班を同行させない五番部隊は各々が応急処置を覚えているので皆、簡単な処置であればかなり手際がいい。


 そうなってくると、大きくて目立つ救護馬車は邪魔になるので、余計にピカピカの救護馬車は未使用のまま出番がなかった。


 リムが今回救護馬車を出したのはリゼナのために他ならない。


「本当に無事で良かった」

 

 ケイトは態度は控えめに心の底から歓喜した。

 リゼナに傷が残ろうものならリムの怒りはこんなものでは済まなかっただろう。


 今回、灰になったのは敵の隠れ家だけで済んだが、もしかしたら多くの敵が骨も残らず灰になっていたかもしれない。


 そう考えると、今回のリムは激昂していた割には大人しかったように思う。

 普通に考えて死人が出ていてもおかしくない状況だったが、死人はゼロだ。


 女性に気を遣うような人ではないが、おそらく、いや、たぶん間違いなく、リゼナがいたからだろう。


 そしてリゼナの部屋に付けていた見張り役の部下についてはクビにならずに済んだ。

 後ほど訓練で地獄を見ることになるのは明らかだが、これでも普段のリムからしたら穏便に済ませている。


 それにしても、何だ?

 

 ケイトは何故か嬉しそうな表情を浮かべるリムに首を傾げる。


「ねぇ、ケイト」

「何でしょうか?」

 ケイトは警戒気味に返事をする。


「君は異性に感謝のキスをされたことはある?」

「何です? その腹が立つ質問は」


 そう感じるのは自分だけではないはずだ。

 

「…………ありますよ。妻だけですが」

「一人だけ?」


 本当に腹が立つなこの男。


 一生涯、女性に不便しないであろうこの男に対抗する気など毛頭ないが、女性に触れる機会が一生涯ない男も世の中にはいくらでもいるのだ。


 自分は運良く、一生涯を共に支え合って生きていきたいと思える女性に出会え、気持ちが通じ合うことができた。

 触れられるのも、触れるのも大事な妻一人だけでいい。 


「一人で十分です。感謝のキスといっても、唇が触れるんですよ。誰にでも気軽にするものじゃありません」


 一体、何でこんな脈絡のない質問をされているのだろうか、自分は。

 そして何故こんなに丁寧に答えているのか。


「ふーん。そうなの」


 質問したのはそちらのくせに、全く気のない返事が短く返ってくる。

 そしてリムは自分の左手の指先を眺めているのを見て、ケイトは察した。


 やけに嬉しそうなリムを見て、合点がいく。


 おそらく、そういうことなのだ。

 いや、まさかと思いもするが、そう考えれば今回のらしくないリムの行動にも納得がいくのである。


 となると、自分は今後どのように動くべきかケイトは頭を悩ませた。


 




 






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