優しい……?
「ニヤニヤしないでくれる? 気持ち悪いんだけど」
リムは頬を緩ませたリゼナを睨んで言う。
「元々こういう顔です」
先ほどのルイとリムのやり取りを見たリゼナはリムの意外な一面に頬を緩ませずにいられないのだ。
「子供には優しいんですね」
「僕は誰にだって優しいじゃない」
二人の会話が聞こえる範囲にいたすべての隊員達が『嘘つけ!!』と心の中で突っ込んだ。
騎士団が隊の垣根を越えて一丸となった瞬間である。
「子供は健やかであるべきだよ」
その表情に感情は見えない。
だけど、そこに悪意はない。
リムはに子供時代は辛い思いをして過ごした。
だからこそ、ルイや今の子供達には子供らしく過ごし、健やかに成長して欲しいと願っているのだろう。
過去がどうであろうと、自分の生き方は自分で選べるのだとリゼナは改めて考えさせられた。
悲惨な過去を持ち、子供を同じ目に遭わせようとするグレイと、子供を同じ目に遭わせないように尽くすリムとでは根本的に違う。
そう考えると、リムは確かに優しいと言える。
リゼナはリムと一緒に地上へ出た。
沢山の騎士が庭に集まり、今回グレイに加担した者達を拘束し、連行している最中だった。
怪我人も多く、応急処置をしている者もいれば、また地に伏せている者もいる。
驚くべきはその人数の多さだ。
「こんなに沢山の仲間を集めていたなんて……」
「魔女狩りで家族や友人を失くした者は多い。失くしたものが多い分、恨みも憎しみも多いのさ」
リムの言葉がリゼナの心に重く圧し掛かる。
恨みと憎しみに囚われて、前に進めない人達がこれだけ沢山いる。
いいえ、これはほんの一握りよね。
実際にはもっと多くの人が魔女狩りを行った国を恨んでいるはずだ。
リムに支えながらそんなことを考えているとリゼナは足を何かにぶつけた。
「きゃあっ」
足に触れる感触に反射的に飛び退く。
リゼナがぶつかったのは倒れた人であった。
「あぁ、まだ処理しきれてないから。足元気を付けてね」
そう言ってリムは倒れた人を踏みつけて歩く。
リムが踏みつける度に『ぐえっ』とか『ぐあっ』っと呻き声が上がるのだ。
あろうことか、『ほら、行くよ』とリゼナにも倒れた人を踏ませようとするものだから困る。
さっきの『優しい』発言はやはり撤回した方がいい。
優しい人はいかなる理由があろうとも人を踏みつけにしたりしない。
「ヴァイオレット隊長……できれば人は踏みたくないんですけど」
「気にしないでいいよ。雑草を踏みつけて歩くと思えば」
無理を言うな。
これは人道的な問題である。
「全く、仕方ないね」
「いや、全く仕方ない要素がな……きゃあっ」
リムは一度リゼナから手を放し、膝下に腕を回して抱き上げた。
それを見て周囲からの視線が集まり、リゼナは恥ずかしくなる。
「お、降ろして下さい!」
こんな風に注目を浴びるくらいなら、一人で這いずった方がマシだ。
「君が歩けないって言ったんじゃない」
「私は人を踏みたくないと言ったんです!」
「我が儘言わないで」
「我が儘じゃありませんっ!」
窘めるようにリムは言うが、絶対にこれは我が儘ではない。
「リゼナさん!」
聞き慣れない声に振り向くと声の方向から小走りで誰かが駆けて来る。
「えっと……あなたは確か…………」
リムの邸でリムに失礼なことを言った青年だ。
アルノーアからはリムに対抗意識があると聞いている。
「セスナ・ライトウェルです。二番部隊の隊長を務めております」
「あぁ、失礼しました。ライトウェル隊長」
「気軽にセスナと呼んで下さい」
そう言ってセスナはリゼナに優しい口調で話しかける。
「怪我をされたと聞きました。馬車を用意しているので案内します」
「ありがとうございます」
そう言ってリゼナに手を差し出す。
せっかく手を差し出してくれたのになんだが、リムに抱かれている状態でどうやってその手を取ればいいのだろうか。
戸惑っていると身体の向きが急に変わり、セスナの手が遠のいた。
「結構だよ。うちの部下が既に手配している」
不機嫌そうなリムがリゼナをセスナから遠ざけて言う。
「は? 五番部隊が? 銃撃戦でも救護馬車なんて用意しない五番部隊が⁉」
セスナは目玉が飛び出るんじゃないかと思うほど丸くする。
その言葉にリゼナは耳を疑う。
銃撃戦でも救護を要しないってどういうことよ……。
リゼナは不信感を持ってリムを見やる。
そこには面白くなさそうな顔をしているリムがいた。
「せっかくあるのに使わないのは勿体ないでしょ。うちのがあるから君の所に用はないよ」
そう言ってリムはリゼナを抱きかかえたまま、言葉を失い、固まるセスナの前を通り過ぎた。




