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意外な一面

 グレイは拘束され、騎士達に連行された。


「立てる?」


 冷たい床に座り込んだままのリゼナにリムが言う。

 

「なんとか」


 リゼナはリムの手を借り、ゆっくりと立ち上がる。

 傷が痛み、右足に力がほとんど入らないのでほとんどリムに寄りかかった状態だ。


 歩き出そうとすると廊下からバタバタと足音を響かせながら誰かが走ってくるのが分かった。


「ルイ! ルイ!」

「院長先生!」


 涙声でルイの名前を呼び、部屋に飛び込んできたのは院長先生だった。

 院長先生の姿を見止めたルイはそのまま院長先生に抱き着いた。


「あぁ! ルイ! 本当に無事で良かった!」

「大袈裟だなぁ、全く」


 感涙する院長先生にルイは照れくさそうに言う。

 ルイを力一杯抱き締める院長先生はルイの無事を心の底から喜び、愛情があふれて見えた。


 血の繋がりはなくとも家族であり、大切な存在だということがよく分かる。

 ルイと院長先生の強い絆を目の当たりにすると、どうしてもグレイの境遇が不憫に思えた。

 

 血の繋がりのある親類に道具として扱われたグレイと血の繋がりなどなくても大切にされているルイを比較してしまう。


 グレイを保護したのが、院長先生のような大人だったら彼も救われていただろうに。

 そうすれば、今頃グレイは従姉妹と仲良く暮らせていたかもしれない。

 

 全ては『もしも』の世界だ。

 過去は覆すことができない。


 リゼナはちらりとリムに視線を向ける。

 すると意外なことにとても優し気にルイと院長先生を見つめていた。


リムも幼い頃に祖母から厳しく過酷な生活を強いられていた。


血の繋がった肉親から酷い仕打ちを受けていたという点ではグレイと通ずるものがある。


しかし、リムはグレイのように憎悪から国に害をなそうとは考えていない。


似た境遇であってもリムはグレイと違い、負の鎖には捕らわれなかった。


それがリムの心の強さなのだと思う。


リゼナはルイ達に優しい視線を向けるリムを見つめた。


 孫と祖母にも見える二人にリムは何を思ったのだろうか。


 もしかしたら、過去の自分と祖母であるベアトリーチェの姿を重ねたのかもしれない。

 

 両親を失った幼いリムにベアトリーチェがしたことは傍から見れば非道であると言える。

 しかし、その非道な行いが全て、孫を守るために行ったことだとすれば、彼女の中には確かな孫への想いがあるように思える。

 

 グレイが叔父や大人達からされた行いも非道だ。

 同じ非道な行いではあるが、リムとグレイには大きな差があるように思える。


 難しいわね。


 リゼナは心の中でグレイの心が救われることを祈る。

 それしかできることはない。


「行こう。上に救護班が来てる」


 リムはそう言ってリゼナにゆっくり歩くように促した。


「待ってくれ!」


 大きな声でリムを呼び留めたのはルイだった。

 リムはその声にゆっくりと振り返る。


「僕に何か用?」


 リムが特別不機嫌そうではないことにリゼナは安堵する。

 声音も普段よりも優しい気がした。


「どうしたら兄ちゃんみたいになれる⁉」


 ルイは大きな声ではっきりとリムに疑問をぶつけた。

 それを聞いた者達は揃いに揃って動きが停止した。


 これにはリゼナもびっくりである。


「……僕みたいになりたいの?」


 不思議そうに言うリムにルイは大きく頷き、言った。


「俺も兄ちゃんみたいに誰かを守れるような強い騎士になりたい!」

「こら……ルイ……」


 これ以上、リムに失礼をしないようにと院長先生がやんわりと止めに入る。


「そうすれば孤児院のみんなも、院長先生も、す、好きな女だって守れる!」


 その言葉にルイもリゼナも院長先生も、アルノーアを含めた騎士達が全員目を丸くした。

 

 主に皆が意識したのは『好きな女』の部分だろう。

 子供ながらに好きな異性がいるらしい。

 子供らしくもあり、大人びているようでもあり、とにかく微笑ましい。


 しかし、ルイは至って真剣な表情で真っすぐリムに向き合っている。


 この人は何て答えるのかしら……。


 まさか、子供の夢や希望をへし折るような真似はしないと思いたいが、普段の部下やリゼナへの接し方を考えれば子供にも容赦がないように思える。


 皆がハラハラしながら二人を見つめている。


「よく食べ、よく寝て、よく遊ぶこと」


 リムの言葉にルイは首を傾げた。


「そんなことで強くなれるのか?」


 馬鹿にされていると思ったのだろう。

 ルイは膨れっ面になる。


「騎士団に入るためには厳しい試験に合格しなければならない。それには強い心が不可欠なんだ」


 リムは諭すような口調でルイに言い聞かせる。


「強い心?」


 ルイは首を傾げた。


「厳しい試験や訓練ですぐに折れるような心では到底入隊は無理だからね。騎士達は何かしらの強い信念を持っている。君が騎士になりたいという理由が弱い者を守りたいという優しさなら、その心を育てる必要がある」


「心を育てる……」


 ルイはリムの言葉を心に刻むように小さく復唱した。


「そう。まずはよく食べ、よく寝て、よく遊ぶこと。仲間と遊び尽くし、心が楽しいと思える本を沢山読むこと。時に嫌いなことも、やりたくないこともやってみること。そうやって色んなことを見て聞いて、感じて、体験して、心を豊かにする。それが心を育てるということだよ」


 ルイは瞳をきらきらと輝かせてリムの言葉に耳を傾けていた。


「それらを充分に行った時、まだ騎士になりたいというのであれば、騎士団の門を叩くといい。入隊を認められた暁には僕の隊で面倒を見よう」

 

 そう言ってリムはルイに小さな笑みを浮かべた。

 ルイの大きな瞳に大きな夢と希望が宿った瞬間だ。


「俺、頑張るよ! だから、絶対にその約束忘れないでくれよ!」


 待っているよ、と小さく返事をしてリムはリゼナを支え直して歩き出した。

 

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