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摩耗封じの砂時計

「リム・ヴァイオレット……どうしてここが……」


 血が滲む口元を袖で拭いながら立ち上がり、グレイは言う。

 

「随分と小賢しい真似をしてくれたね。だけど、僕の情報網を甘く見過ぎだよ。騎士団や政府の情報網の比じゃないんだ。君達の隠れ家は全て消し炭にしておいてあげたし、今頃仲間も牢屋に繋がれてるんじゃないかな」


 その言葉にリムが独自の情報網を使用し、この場所を突き止めたことが窺える。

 そして容赦なく制裁を加えてきたことも。


「ヴァイオレット隊長、グレイは移動魔法を使う魔法使いです」


 リゼナはリムの背中に向かって言い放つ。


「なるほど、移動魔法か。どうりで、後が追えなかったわけだ」


 リゼナがいなくなり、すぐに探してくれていたことに嬉しくなる。

 

 しかし、どうしてすぐに犯人がグレイだと突き止めることができたのだろうか。


「君がエカテリーナ・ニルを利用して王宮の結界を破ったことも、既に知れている。彼女は今牢屋にいるよ」


「え、エカテリーナが⁉」


 意外な人物の名前がリムの口から出て来てリゼナは驚く。


「どうして彼女がそんなことを……」

「逆恨みだろうね。まぁ、君が気にする必要はないよ」


 心当たりはある。

 リゼナがリムのパートナーになったことがおそらく気に入らなかったのだろう。

 それに昨日、事務課でリムに熱烈な視線を送っていたのに、その相手にパーティー会場という人の多い場所で職務怠慢を指摘され、恥をかかされた件も理由になるだろう。


 あれ、これって私のせい? この人のせいじゃない?


 エカテリーナが私とリムの関係に嫉妬してリムに恥をかかされた怒りの矛先が私に向いただけじゃない?


 とばっちりじゃない?

 どれかっていうとリムのせいじゃない?


 知らず知らずのうちに他人の色恋沙汰に巻き込まれていたことを知り、身体が一気に重たくなった。


「何だ、もうバレたのか。思ったよりも使えないな、あいつ」


 そう言ってグレイはおかしそうに笑う。

 その表情には余裕があり、そのことにリゼナは違和感を覚えた。


「君の目的はあの本を利用して市井を混乱させ、反政府側の魔女達の結束を強め、あわよくば国に一矢報いたいってところかな。リゼナを拉致したのはこれ以上計画の邪魔をさせないため。従順であれば仲間に加えようって魂胆かな。思惑は外れたみたいだけど」


 全てをリムに言い当てられたグレイは一瞬だけ悔しそうな表情をするが、すぐに余裕を取り戻す。


「その通り。エカテリーナは使えないし、リゼナにはフラれるし、こんなに早くこの場所が突き止められるとは思ってなかったし。散々だな」


 力の差は圧倒的なリムを前に、この余裕な表情……何か隠しているのかしら?


 そう思った時、バタバタと複数の足音が近づいてくるのが分かった。

 騎士団が助けに来てくれたのだと思ったが、雪崩れ込むように部屋へ入ってきたのは騎士団ではなかった。


 「全員で入るにはこの部屋は狭すぎると思うけど?」


  リムの言葉にグレイは鼻で笑った。


 部屋に押し入って来たのは武器を手にしたグレイの仲間だった。

 見た所、十数人。

 それぞれが皆、体格の良い男達で、手には刃物を持っている。


「お、いい女がいるじゃねーか」


 一人の男の言葉にリゼナに視線が集中し、リゼナはゾワっと肌が泡立つ。


「あれれ? 怪我しちゃったのかな?」

「手当しないとなー?」

「手当にはそのドレスは邪魔だなー?」


 下卑た言葉にリゼナは恐怖を覚える。


 しかし、男達からの視線を遮るようにルイがリゼナの前に立った。


「彼女を頼むよ」


 ルイにちらりと視線を向けたリムがそう言うと、ルイは頷く。


「ヒーローぶっていられるのも今のうちだぞ、リム・ヴァイオレット」


 グレイはそう言って懐から砂時計を取り出した。

 その砂時計が一瞬強い光を放ち、それを逆さまにすると上から下に光る砂が少しずつ落ちていく。


「その砂時計に何があるんだい?」


 リムは大して気に留めない風に言って、剣を構えた。

 しかし、そこで何かはっとした表情になる。


「気付いたか? この砂時計は魔道具だよ。この砂が落ちている間、この空間内では魔法は一切使うことができない」


「そんな!」


 リゼナは愕然とする。

 つまりはリムは魔法を使って戦うことができないということだ。

 グレイがリムを前にして焦りを感じていないように見えたのは最初からリムに魔法を使わせない状況が作れたからだ。

 

 この屈強な大勢の男達を前に、魔法を使えなければ勝算はない。


「本当だ。僕の炎を抑える魔道具……作った者は相当強い魔力があるようだね」


 手を握ったり、剣を握り直したりと魔法が使えないことを確認し、リムは感心したように言う。


 リゼナは絶望的な表情になる。

 しかし、危機的状況の中で、リムは一人不敵な笑みを浮かべていた。


「お前も魔法が使えなければただの人間と変わらない。おい、リム・ヴァイオレットを殺せ!!」


 グレイの言葉が合図となり、男達が一斉にリムに襲い掛かる。

 複数の足音が重なり合い、室内に響き、床を揺らした。 


「リム!」


 鋭い白刃がリムに向かって振り下ろされ、リゼナは恐怖で目を強く瞑った。


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