来てくれた
「うぐっ…………」
顔を上げると、部屋のドアの前で倒れて呻き声を上げるグレイがいた。
視線を逸らせば何が起こったのか理解できず、唖然と床に座り込むルイがいる。
一先ず、ルイが無事であることにリゼナは安堵した。
「女を庇って拳銃持った男に立ち向かうなんて、なかなか見どころあるじゃない」
感心したような声で言うと大きな手がルイの頭を撫でた。
その光景に助かったのだと確信し、涙が溢れだす。
「夢じゃないですよね?」
これは恐怖から都合のいい夢を見ている、なんてことはないと願い、問い掛けた。
「頬でも抓ろうか?」
冗談交じりに言うがこの男は本当にやりそうで怖いのですぐさま首を横に振る。
「今度は落とさないでよ」
そう言ってリゼナの前に屈みこむ。
すると、剥き出しの肩が少しだけ重くなる。
肩に掛けられた上着は騎士団のみが着用を許された白の上着だ。
その上着は一部隊を預かる隊長の証と彼のカラーである紫色の装飾もあり、重みがあった。
重たい上着から彼の温もりとふわりと香る彼の匂いに、安堵の涙が止まらない。
「リム……ヴァイオレット隊長……」
リゼナは目の前にいる青年の名前を呼んだ。
リゼナの無事を確かめるように彷徨わせていたリムの視線がリゼナの右太腿で止まる。
「怪我をしたの?」
「掠っただけです」
眉間にしわを寄せたリムにリゼナは答える。
正直、凄く痛い。だけど、リゼナは精一杯強がった。
リムに自分の無様な姿はできるだけ晒したくないという謎の意地が働く。
「遅くなって悪かったね」
リムはそう言ってリゼナの涙を指先で優しく払う。
その声も指も優しくて、胸の奥から激しい感情が涙と共に溢れ出した。
「遅いんですよ!」
リゼナは怒りをぶつけるようにリムの身体にしがみついた。
「だから謝ってるじゃない」
リムはそう言ってリゼナが肩に掛けた上着ごろリゼナを抱き締める。
珍しく困ったような口調のリムを意外に思いながらも、触れた場所からリムの温もりを感じながら生きている心地を噛み締めた。
しかし、いつまでもこうしているわけにはいかないので、リゼナはゆっくり身体を離す。
顔を上げるとこちらを見下ろすリムと目が合い、急に羞恥心が込み上げてきた。
「あ、あの……今のは……その……」
危機的状況に晒されていたので見知った顔を見てほっとしたのだ。
怖くて、寒くて仕方がなかった。
言い訳をしようとするリゼナのこめかみに柔らかいものが触れる。
それがリムの唇だと分かった途端、顔から火が出そうなほど熱くなった。
「もう泣かなくていいよ」
そんな言葉はなくともこめかみに口付けられたことで涙は引っ込んでいる。
リムはリゼナの肩からずり落ちそうな上着をもう一度かけ直して、立ち上がり、リゼナに背を向けた。
「さぁ、覚悟はいいかい?」
腰に収められていた剣を抜くリムの金色の瞳は怒りの炎で揺れていた。




