守るって言ったでしょ
その光景にリゼナは背筋が震えた。
「グレイ! 止めて! お願いだからっ!」
リゼナは悲鳴にも似た声を上げる。
しかし、グレイはルイから銃口を逸らさない。
ルイの身体が小刻みに震えているのが目に入り、リゼナは後悔した。
私、馬鹿だわ。
いくら大人びていても子供だ。
どうしてルイが現れた時、すぐに戻るように諭さなかったのだろうか。
リゼナと接触さえしていなければ、ルイの賢さならいくらでも誤魔化して院長先生達の元へ戻ることができただろう。
こんな目に遭わせなくて済んだのにっ!
無力で愚かな自分に涙が出る。
ルイの所に行かなきゃ、と思うのに足が重くて動かない。
どうして、私の力は攻撃系じゃないんだろう。
どうして、人を助けられる力じゃないんだろう。
母と祖母の変わり果てた姿を思い出し、リゼナはあの時の恐怖が蘇り、余計に身体が強張った。
「やめて……やめてよ……お願いっ……!」
リゼナは必死に腕を伸ばす。
しかし、すぐそこにいるルイが遠い。
ちらりとルイが視線をこちらに向けた。
その表情はいつもリゼナを馬鹿にする時と同じ表情だった。
そして、何かを決心したようにルイはグレイに向き合う。
「やめてよ……やめて……行かないで……」
その表情は母達がリゼナを置いて家から出て行った日の顔と重なる。
諦めと決意の表情だ。
自分の死を覚悟した者の顔だ。
「お前、男のクセに卑怯だな。女と子供にそんなモン突き付けて。恥ずかしくないのかよ」
ルイはグレイに向かって言い放つ。
その声に迷いや恐れは全くない。
「随分と生意気なガキだな。ガキには分からないだろうけど、大人の男だからこういう武器を持つことが許されるんだよ」
不愉快そうな表情でグレイはルイを見下ろして言う。
しかし、ルイは果敢にもグレイを鋭い視線で睨み返した。
「それでリーナに怪我させた。大人の男は自分より弱いヤツを守るもんだろ。自分より弱いヤツを傷付けて笑ってるなんて大人の男じゃない。お前の嫌いなガキと変わらない」
ルイは真っ直ぐにグレイを見つめて言った。
ルイの言葉にグレイの瞼がヒクっと跳ねる。
グレイの額に薄っすらと青筋が浮かび、リゼナは青ざめた。
マズイ!!
「ダメよ! ルイ!」
それ以上、グレイを刺激しちゃダメ!
ルイの言葉はグレイの核心を突いたのだ。
このままでは本当にグレイはルイを撃ってしまう。
「リーナに怪我させたこと、絶対に許さないからな!」
「うるさい、黙れよ。大人しくしてれば売り飛ばしてやることも考えたけど、顔も中身も可愛くないガキは売れないだろうな」
マズイ!
グレイの瞳が残虐性を帯び、口元に笑みを浮かべて引き金に指をかけた。
このままじゃ、ルイが死んじゃう……私のせいで……。
リゼナは絶望で目の前が真っ暗になる。
身体が動かない。声も出ない。何もできない。
どうして、こうも自分は無力なんだろう。
何度こんな思いをすればいいんだろう。
『僕が守るよ』
ふと頭の中にリムの声が蘇る。
嘘つき。守るって言ったクセに。どうしてきてくれないの。
リゼナは心の中でリムを詰った。
それと同時に願わずにはいられない。
お願い、助けに来て! ルイを、ルイを助けて!
「リム―――!!!」
リゼナは渾身の力を込めて叫んだ。
「そんなに叫ばなくても聞こえてるよ」
耳に入った聞き馴染んだ呆れ声にリゼナは目を見開いた。




