もう少しで
「リーナ、こっちだ」
そう言ってルイが右に曲がる。
「ま、待って!」
リゼナは音を立てないようにルイの後を追った。
ルイのあまりにも自信に満ちた声に思わずリゼナはついて来てしまったが、不安は拭えない。
しかし、そんなリゼナの気持ちを察したのか、先を歩くルイが振り向いて言う。
「心配すんな。俺らにとってこの地下室は遊び場同然だ」
ルイは自信たっぷりに笑み見せる。
自分よりもずっと小さいルイの背中がとても大きく、頼もしく見えた。
本当に、私ったら情けないわね。
「ルイ、ありがとう。来てくれて」
「そういうのは無事に助かってからにしろよな」
リゼナが心からの感謝を口にすると少し照れたような顔でルイは言う。
ルイの言葉にリゼナは不安や心細さから沈んでいた気持ちが少しずつ浮上していく。
絶対に無事に生還してやるわ。
ルイと一緒に地上に出て、グレイ達のことを騎士団に通報しなくちゃ。
強気を取り戻したリゼナはルイと共に、通路を進んで、何度か角を曲がる。
早く逃げたい、助かりたいという気持ちが足早にせ、進むごとに緊張感が募っていく。
「ここだ。ここの部屋の中のクローゼットを開けると地上に繋がる梯子があるんだ。そこから外に出よう」
ルイがドアを開けると、そこには明かりがあった。
敷物も何も敷かれていない冷たい床から冷気が伝わってくる。
「あれ? ここ……最初に私が連れて来られた部屋じゃないかしら?」
リゼナは部屋の中をぐるりと見渡し、確信する。
リゼナが転がされていた床だけ埃っぽさがない。
リゼナが横たわっていた背後にルイのいうクローゼットがあった。
ルイがクローゼットを開け、湿気を纏った衣類を退かすとそこにはクローゼットの天井から伸びる梯子が姿を現す。
「リーナ、先に行け。早く」
ルイはリゼナに顎で言う。
「ダメよ。私が後ろを見てるから、ルイから先に―――」
登って、そう言おうとした時だ。
バンっと何かが弾けるような大きな音が響いた。
音が聞こえたと思ったら、右足に鋭い痛みが走り、リゼナはその場に倒れ込む。
「リーナ⁉」
倒れたリゼナの元にルイが駆け寄る。
「リーナ⁉ どうしたんだ⁉」
「だ……大丈夫……ルイは、怪我はないわよね?」
リゼナは右の太腿を押さえ、精一杯強がって見せた。
「俺は大丈夫だけど……リーナ……血がっ……」
太腿から滲む血を見て、ルイは顔を青くする。
先ほどまでの大人びた表情が急に子供らしくなり、やっぱりまだルイは子供なのだと思わせられた。
「大丈夫……掠っただけよ……それより……」
リゼナは何とか身体を動かして背後を振り返る。
「どこに行くつもりだったんだい? リゼナ」
そこには拳銃を持ち、不気味な笑みを浮かべるグレイの姿があった。
「ちょっと外の空気を吸いたくて」
リゼナは顔を引き攣らせながら冗談ぽく言った。
「それなら俺に言ってくれればいいだろ? こんな薄汚いガキじゃなくてさ」
グレイは面白くなさそうな表情であろうことかルイに銃口を向けた。
「止めて!」
リゼナは顔を青くしたまま震えるルイの頭を守るように抱き締める。
「この子は何も悪くないわ。好奇心が強い子で、普段は人気がないこの場所に人の気配があったから覗きに来てしまっただけ。私が出口に案内して欲しいって頼んだの。何も悪くない。だから、この子には何もしないで。お願い」
「リーナ!」
「お願い、ルイ!」
リゼナはグレイに訴える。
そして、リゼナの腕の中でリゼナに庇われることを嫌がっているであろうルイにも。
悔しさを押し殺すような表情だが、ルイは大人しくなった。
「ふん、まぁ、子供だしね。逃がしてあげてもいいよ」
グレイはそう言うと拳銃を降ろした。
「ありがとう、グレイ」
そもそも子供危害を加えるメリットがない。
グレイもこの場所に長期間潜伏することは考えていないはずだ。
それならば、潜伏している間だけこの孤児院に閉じ込めておけばいいだけの話で、殺す必要はない。
しかし、その考えは甘かった。
ルイとリゼナが身を離した瞬間、グレイは再びルイに銃口を向けたのだ。
「ルイ! こっちに……っう……」
リゼナがルイに腕を伸ばそうとすると撃たれた右腿が痛んだ。
「俺、ガキは嫌いなんだよ」
リゼナが痛みで呻いている間にグレイは銃口をルイに向けたままルイに歩み寄り、遂には眉間に銃口を押し付けた。




