表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/91

小さな騎士

 パタンっとできるだけ音が響かないようにリゼナは慎重にドアを閉めた。


「どうしてあなたがここに?」


 リゼナは複雑そうな表情で腕を組むルイに訊ねた。


「それはこっちの台詞だ。見知らぬ連中が急にここに押しかけてきたと思ったら、明らかに女を誘拐してきたっぽいし。チビの一人がこっそり覗いてたんだ。そうしたらリーナに似てるって俺の所に来たんだよ」


 どうやらグレイ達は数人で孤児院に押しかけ、リゼナを抱えて地下に潜るのを子供の一人が目撃し、それを確かめるためにルイがこうしてやって来たということらしい。


「何て危ない真似をするのよ」

「今の状況分かってんのか? 俺が来なかったら、リーナはずっとここで一人だったんだぞ」


 確かに。

 ルイが現れたことでリゼナの緊張はだいぶ解れたし、危険な状況に代わりないのだが、味方がすぐ側にいる心強さがある。


 大人としては子供の危険な行動を諫めたいところだが、今はルイの憎まれ口に救われている。


 何かあったら私がルイを守らなきゃ。


 リゼナは深く呼吸をして、決意を固めた。


「つーか、何でリーナが怪しい連中に捕まってんだよ? 何したんだ?」

「ちょっとね」


 首を傾げるルイにリゼナは言う。


「あいつら、反政府の奴らだろ? 連れ去られたってことで良いんだよな?」

「えぇ。その通りよ。彼らは私を自分達の仲間に引き入れたいみたいなの」

「なるほどね。リーナは誓約の魔女だもんな。使い勝手は良さそうだ」


 リゼナの言葉にルイは頷く。


「ずっと思っていたんだけど、あなたってしっかりしてるわね……」


 確か、ルイは今年で八歳になったばかりの少年だ。


「俺はもう八歳だぞ。下にチビ達もたくさんいるんだ。俺がちゃんとしてなくてどうすんだよ」


 ルイはそれが当然と言わんばかりの様子でリゼナに告げる。


 今時の八歳ってこんなにしっかりしてるのかしら?

 

 自分が八歳の時はどうだったかと思い出そうとするが、夢中に本を読んでいた記憶しかない。

 母と祖母を失った悲しみから逃れようと、必死だったような気がする。


「私も孤児院で育ったの。ここではないけど。本ばかり読んでいて、いじめられたわね。あなたのようなお兄ちゃんがいてくれたら、違ったのかしら」


「いじめられたのか?」


 真剣な表情でルイは言う。


「えぇ。読んでいた本を急に取られたり、隠されたりしたわ」


 同じ年の男の子だったと記憶している。

 リゼナは大勢で遊ぶよりも一人で好きな本を好きなだけ読んでいたかった。

 そうして自分の世界に閉じ籠ることで、家族を失った悲しみから逃げようとしていたのだ。


「…………あー、たぶんさ。たぶんだけど、嫌がらせしたかったわけじゃないと思うぞ」


 何だか照れくさそうにルイは頭を掻く。


「どういうこと?」


「気を引きたかったんだろ。ずっと本ばっかり読んでるから。関わりたいけど、関わり方が分からなかったんだよ。結果的にリーナは嫌な思いをしただろうし、相手のしたことは正しくないけど。リーナと仲良くなりたかったんじゃねーの?」


 リゼナは時折、ルイに圧倒されるのだ。


「あなた、本当に八歳? 大人過ぎじゃない?」


 八歳にしては大人過ぎる見解だ。

 

 訝しむリゼナにルイは大きな溜息をつく。


「子供だっていつまでも子供じゃないんだぞ。分かれよ」


 その言葉が何を意味をするのか全く理解できていないリゼナを見てルイはもう一度大きな溜息をついた。


「とにかく、ここから出るぞ」


 ルイはそう言ってドアに向かう。

 リゼナは反射的にその腕を引いた。


「ちょっと、待って! 私が先に行くわ」


 リゼナはそっとドアを開けて外を覗いた。

 冷たい空気が入り込み、リゼナは身震いする。

 誰もいないことを確認してリゼナは足音を立てないように部屋を出た。


 小さな電球の光が暗い廊下を照らし、辛うじて全体が見渡せている。

 部屋を出て左は行き止まりで、通路は右だ。


「院長先生や他の子供達は無事かしら……」


 心配で呟くリゼナにルイは言う。


「やつらは院長先生を脅してここに潜り込んだんだ。先生にしたら、俺達子供が全員が人質だ。だけどみんな無事だ。チビ達はほとんど寝てる。おかしな空気に目を覚ましたやつもいるが、院長先生が部屋にいるように言ってある。連中だってこんな時間に大勢の子供に泣かれたくはないだろ。特にチビ達の声は響くからな」


 人質という言葉が重くリゼナの心に圧し掛かる。

 しかし、ルイの話を聞き、少しだけ落ち着いた。


 ルイの言う通りね。

 グレイも大勢の子供達に騒がれて通報されたくはないだろうし、子供達に危害を加えることが目的ではないはず。


 危ない状況に変わりはないが、皆が無事であれば一先ず安心だ。


「だけど、何で孤児院に地下室なんてあるのかしら?」

「前に院長先生が言ってた。ここは昔、魔女狩りから逃れるための魔女達の隠れ蓑だったって」

「なるほど。ならこの場所の存在を知る人がいて、この場所に逃げ込んだのかもしれないわね」


 ルイと小声で話しながらリゼナは部屋を出て右の通路に進む。

 歩いて行くと、通路が左右に分かれていた。


 一体、どっちに行けばいいのかしら。

 遠くで誰かが会話をする音が反響して聞こえてくるが、左右どちらの方向から聞こえてくるのか分からない。





 





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ