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脱出の鍵

「私が知っている場所って……」


 どこよ?


 リゼナは一人残された部屋を改めてぐるりと見渡した。


「窓がない……さっきの部屋よりはマシだけど寒いわ……」


 部屋にはどこにも窓がなく、床から冷気を感じる。

 床にはカーペットが敷かれ、床からの冷気を遮断してくれているので先ほどの部屋よりは暖かく感じるが、冷えた身体は温まらない。


 震える身体を抱き締めても冷えた指先で余計に体温が奪われる気がした。


「……地下かしら」


 リゼナはベッドから降りて、グレイが消えたドアに耳を当てて部屋の外の様子を窺った。


 誰かの足音や物音が反響して聞こえる。


「やっぱり、ここはどこかの地下室なんだわ」


 だけど、自分が知っている地下室のある建物は王宮ぐらいだ。


「他に地下室がありそうなところなんてあるかしら?」


 リゼナは相変わらずグラグラする頭で思考を巡らす。

 しかし身体の冷えと、体力の限界もあり、思考がまとまらない。


 ドアの外に誰かがいる気配はないが、ドアノブを回しても開く気配はない。


「どうしよう……このままじゃ、本当にグレイと誓約を交わさないといけないわ……」


 リゼナは頭を抱えた。


 

「寒い……ヴァイオレット隊長のジャケット……落として来たのね」


 ふいに、彼のジャケットを羽織った時に感じた温もりを思い出す。


『僕が守るよ』


 脳裏にリムの言葉が蘇り、リゼナは泣きたくなった。


「嘘つき。守るって言ってくせに」


 心細さと不安が波になってリゼナに押し寄せてくる。

 少し前まで感じていたリムの体温がとても恋しく感じて、眦に涙が浮かんだ。


「……ダメよ、弱気になっちゃ」


 リゼナは手の甲で涙を拭う。


 騎士団にとってリゼナはまだ必要な存在のはずだ。

 このまま助けが来ないなんてことはないだろう。


 それに加えて、グレイにとってもリゼナは有益な存在だ。

 命を取られることはないと考えていい。


 グレイには同情するが、リゼナはグレイ達の味方になるつもりはない。


「それに、彼らが本当に私にとって無害かどうかはまだ判断できないわ」


 身の安全が保障されたわけじゃない。

 油断は禁物だ。


「とりあえず、逃げないと……何かないかしら?」


 リゼナはもう一度、部屋の中を見渡す。


 窓のない部屋にあるのは絨毯とベッドにソファー、それから古い机と椅子だ。

 机の引き出しを開けてみるが、中には何も入っていない。


「……何にもないわね……」


 リゼナは溜息を着き、徐に椅子に腰を降ろした。

 そして違和感を覚えた。


「何だか、この机と椅子、高さが合ってないわね……」


 おそらく、この机に合わせた椅子ではないのだろう。

 

 リゼナは四つん這いになって椅子の座面を除き込む。

 椅子の座面には椅子の製作者の名前やお店の印が書いてあることが多いのだが、古いせいで薄れて読めない。


 しかし、その代わりに座面の端に名前らしき文字と日付らしき数字が書かれていた。


「もしかして寄贈品かしら? こっちの机も……あ、あった!」


 同じように名前と別の日付が記されている。

 だが、文字が薄くなって読むことができない。


「やっぱりそうだわ。きっと、どこかから寄贈されたものよ……この数字は寄贈された日付だわ……掠れて読めないけど……ということは……もしかして……」


 そこでグレイの言葉を思い出す。


 私の知っている場所で、地下室がありそうな建物…………。


「まさか孤児院なの?」


 孤児院であれば寄贈されたり、寄付された物はたくさんある。


「だけど、どうして地下室なんかあるのかしら?」


 そう呟いた時、ガチャリとドアの鍵が開く音がして、心臓が跳ねた。

 

 うそ、どうしよう⁉


 このままじゃ、本当にグレイと誓約を交わさなきゃならなくなる。

 仲間にさせられたら、リゼナは国から追われる身になるだろう。


 そんなの御免よ! まだまだ図書館には読みたい本がたくさんあるのに!

 

 それに、孤児院の子供達にこれからもたくさんの本を読んであげたい。

 本の読むことの楽しさや素晴らしさを教えてあげたい。

 子供達のキラキラとした表情を見ていたい。


 このまま言いなりにはなれない。


「そこにいるのはグレイ?」


 リゼナは固唾を飲み、ドアの向こうで鍵を開けたと思われる人物に話しかけた。


「ちょっと話がしたいのだけど、いいかしら?」


 リゼナは言うが、何故か部屋に入って来ない。

 不審に思い、リゼナはドアに近づく。


 緊張気味にドアノブに手を伸ばし、ドアをゆっくり開けた。

 扉の向こうにいる人物を確認しようとドアの向こうを覗き込む。


 すると視線の低い位置で何かが動いた。


「きゃあっ!」


 リゼナは突然動いた何かに驚き声を上げる。

 

「しっー!!! 静かに!」


 聞き覚えのある声にリゼナは驚く。そして大声を出してしまったことにはっとして口元を押さえる。

 唇の前に人差し指を押し当て、声が響かないように言う人物には見覚えがあった。


「やっぱり、リーナか。相変わらず鈍くさいな」


 そう言って憎まれ口を叩くのは孤児院で子供達のリーダー的存在であるルイだった。



 


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