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攫われたリゼナ

 あれからどれくらい時間が経ったのだろうか。

 冷え切った床に横たわり、リゼナは目の前の床をぼんやりと見つめた。


 意識が遠のきそうになる度に後ろで縛られた手の平に自身の爪を立てる。その痛みで何とか意識を保っている状態だ。



 寒い……。


 リゼナ汚れたドレス姿のままで、露出された部分から熱がどんどん逃げていく。

 春になったばかりのこの時期は朝晩はかなり冷え込む。

 日中の晴天が続き、空に雲がない今晩は特に冷え込んでいた。


 マズいわね……。


 手足が冷え、血が滲むほど爪を立てても痛みを感じなくなってきた。


「眠そうだね、リゼナ。眠気覚ましに水でも被る?」


 リゼナの前に屈みこんで、楽しそうに言うのはグレイ・ソール。

 リゼナの職場の同期だ。


 窓のない部屋にグレイの声が反響し、寒気と共にリゼナを震えさせる。

 

「君が俺達の仲間になってくれればそれでいいんだよ? 縄も切ってあげるし、温かい部屋も毛布も替えのドレスももっと似合うものを用意してあげるのに」


 そう言ってグレイはリゼナの頬にナイフを押し当てた。

 

「……っ……一体何でこんなことを……?」


 リゼナは寒さで声を震わせながら訊ねる。


 王宮の一室で休んでいたリゼナは物音で目を覚ました。

 するとそこにグレイの姿があり、訳も分からぬうちに薬を嗅がされて連れ去られてしまった。


 まさか、こんなことになるなんて思いもしなかった。


 誰が同僚に拉致される未来が予想できるのよ。無理に決まってる。


 リゼナは自分の不用心さを悔やみつつも、全く予想外の展開に諦めの溜息をつく。

 

 だけど、彼の目的だけははっきりさせなければならない。


「何って、そんなのこの国を転覆させるために決まってるじゃないか。『悪しき魔女の本』を使ったこの事件は大事な前菜だったのに。まさか、君に滅茶苦茶にされるなんて思ってもみなかったよ」


 やれやれとグレイは前髪を払い、困り顔でリゼナを見下ろした。


「何ですって? あなたがあの本の封印を破った犯人だったの?」


「やっと気づいた? その通りさ」


 驚愕の表情を浮かべるリゼナにグレイはにこやかな笑みを浮かべる。


「物語を書き換えることのできる詩編の魔女はそう簡単には見つからないことは分かっていたんだ。だって、魔女狩りで多くの魔女が死に、絶対的に人口が少ない。その中から詩編の魔女を見つけるのは困難だ。いるかもどうか分からない魔女の存在を躍起になって探している奴らを見るのはとても愉快だったよ」



 そう言ってグレイは笑う。


「なのに、まさか君が詩編の魔女と同じことができるだなんて思わなかった。小人の数をあっと言う間に減らしてくれた。そもそも小人がターゲットに選ぶのは攻撃系の魔女ばかりだったから君がターゲットになったことも予想外だったけどね」


 グレイは本当に驚いたようで、不思議そうな顔で首を傾げる。


「本当にあなたがしたことなのね。本の封印を破ったのも、この事件を起こしたのも」


 嘘であって欲しいと願うリゼナの願望は打ち砕かれる。


「そうさ。結界や封印破りが得意な仲間がいるんだ。その力を付与した魔道具でね。元々封印は弱っていたからすぐに破れた。城の結界は流石に破れなかったけど、穴は空けることができた。タイミング良く、君を狙った小人が襲撃したみたいだね」


「結界を破って何をしようとしていたの? その言い方だと、小人に襲撃させるために結界を破りたかったわけじゃないわよね?」


「その通り。小人の襲撃は偶然だ。本当は混乱に乗じて他の本の封印も破ろうと思ったんだけど、それは失敗しちゃった」


 悪気なく言うグレイにリゼナは眉を顰める。


「でもこうして君をあの男から無事引き離すことができたわけだし、結果オーライかな」


 グレイは屈んでリゼナの顔を除き込む。


「眼鏡外したらこんな顔してたんだね。リム・ヴァイオレットも所詮はただの男だってことか」

「何を言ってるの?」


 下卑た笑みを浮かべ、視線を顔から首筋を辿り、胸元で止めるグレイにリゼナは睨みつけて言った。


「職場でも評判良かったんだよ。あのダサい髪型と眼鏡がなきゃって。こんなドレス貰うぐらいなんだから、そういう仲なんだろ?」


「違うわよ。そんなんじゃないわ」


 リムがドレスを用意してくれたのは仕事でパーティーに同伴するパートナーが必要だったことと、リゼナの護衛を兼ねていたからだ。


「あなたが邪推するような関係じゃないわ」


 リゼナが言うとグレイは嬉々とした表情でリゼナを見下ろした。

 その表情が不気味で背中に嫌な汗をかく。

 逃げろ、逃げろと本能が警鐘を鳴らし、リゼナに危険を知らせる。


「本当に? 本当に喰われてないのかな?」


 グレイが言葉を発するとぐにゃりと視界が大きく歪む。

 瞬きをしている間に目の前の景色が変わったのだ。


 寒くて冷たい床がふわふわのベッドに代わり、部屋も暖かい。


「うっ……」


 頭が割れそうな痛みが走り、リゼナは呻き声を漏らす。

 頭痛だけじゃなく、目の前がグラグラとして吐き気を催す。


 そんなリゼナの肩が強く押され、後ろ手で縛られたまま仰向けに身体がベッドに沈み込んだ。




 


 


 

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