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燃え上がる怒り

「申し訳ございません‼」 


 深々と頭を下げるのはリゼナがいた部屋の扉を見張っていたリムの部下二人だ。

 唇を噛み、額に汗を流して顔を伏せている。


 リムは誰もいない静まり返った部屋に足を踏み入れる。

 ここは間違いなくリゼナがいた部屋で、自分が彼女の肩にかけたジャケットが床に落ちていた。


 徐にそれを拾い上げると、ふわりと酒の匂いが漂い、リゼナの痕跡が感じられる。


「説明して」


 リムが温度のない低い声で言うと室内が更に緊迫する。 


「部屋の外で見張りをしていた最中、部屋の中で物音がしました。外から声を掛けたところ、返事はなく……テーブルから何を落としたのだろうと思ったのです」


 テーブルには飲みかけのお茶が入ったカップと拘束時間が読めないからと、暇つぶしの本が数冊置いてあった。


「返事がないのも休んでいるのだろうと……しかし、途中で心配になり、部屋の中を確認したところもぬけの殻に……」


 緊張気味に部下は言う。


 ケイトはその様子を固唾を飲んで見守っていた。

 次なるリムの指示に備えているのだ。


「いつからいなかったのかでさえ不確かだってこと」


 部下の説明を受けたリムは言う。

 叱責する風でもなく、咎める風でもない、その静かな様子が余計に隊員達の顔色を悪くする。


 手元にあるジャケットに視線を落とす。

 寄りかかったあの華奢な肩に確かにかけた。

 

 今頃、寒くて震えていないだろうか。


 ふとそんな考えが頭を過る。

 

 少し前まであの華奢な肩に寄りかかっていたのに、彼女は今ここにいないのだ。

 

 そう考えると心の中にぽっかり穴が開いたような、底が抜けて暗い闇へとどこまでも落ちていくような感覚を覚える。


 絶望と大きな喪失感がリムを襲う。

 まるで幼いあの日、父母を失くした時に感じた嫌な感覚が大きな波となってリムを飲み込もうとする。


 そして時間差でやってきたのは凄まじい怒りだ。


「誘拐犯については?」

「不審な輩が貧民街に向かって散り散りに消えたと情報があります。動ける隊員総出で捜索中です」


 ケイトが現在分かっている情報をリムに伝える。

 貧民街は広く、治安が悪い。そして老朽化した古い建物が並び、入り組んでいる。

 似たような建物が多く、似たような風景が続くため、夜の捜索は厳しいものになる。


 犯人の目的が分からない以上、リゼナの安否も危ぶまれる。



「ケイト」

「はい、隊長」


 ケイトは硬い表情で返事をする。

 リムの背中から感じる激しい怒りに部屋の空気がピリピリとして、ケイトの肌を刺す。


「梟達に伝えてくれる?」


 梟とはリム・ヴァイオレット個人が立ち上げた自警団の構成員の通称だ。

 

 自警団といっても構成員は善良な市民ではなく、ただ喧嘩好きから法に触れるギリギリの怪しい商売をしている者、国にとっての厄介者まで様々で誰もが一癖も二癖もある荒くれどもである。


 それを束ねるのがリム・ヴァイオレットという男だ。


「彼らには何と?」


 ケイトは固唾を飲み、訊ねた。

 リムは踵を返し、セスナの横を通り過ぎる。


「早急に伝えて」


 その金色の瞳は合わせれば射殺されそうなほど強い怒りで燃え上がっていた。


「長い黒髪、夜色のドレスを着た女と、それを連れ去った輩をリム・ヴァイオレットが探していると」



 


 


 


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