緊急事態
「来たな、リム」
会議室と称された部屋に足を踏み入れるとリム意外に招集をかけられた者達は既に集まっていた。
「あの部屋の修繕よろしくね。団長」
「…………おい、何をどれだけ壊した?」
「当分は休憩室としては使えないぐらい?」
リムの言葉にアルノーアは両手で頭を抱えて反り返りそうな勢いで天井を仰ぐ。
そんなアルノーアの前を通って自分の立ち位置に着いた。
「おい、ヴァイオレット。その……あの人は無事なんだろうな?」
声を掛けてきたのはセスナ・ライトウェルだ。
普段から自分に突っかかるような物言いの彼には珍しく、なんだかしおらしさを感じる。
「あの人?」
「リゼナさんだ。怪我はないのか? 無事なんだよな?」
いつもと違う様子のセスナにリムは首を傾げる。
何故、セスナがリゼナを気にするのだろうか。
「無事だよ。別室で休ませてる」
リムがそう言うとセスナは強張らせていた表情を和らげ、『良かった』と一言告げて、離れて行く。
いつもなら一言、二言、喧嘩腰で何かを言ってくるセスナの大人しさに違和感が拭えない。
それに、何だかとてつもない焦燥感が胸の中を駆け巡る。
「じゃあ、始める。まずリムから報告を」
乱れた髪を手櫛で整え、改まってアルノーアは言う。
「何者かが城に張った結界に穴を開けた痕跡を見つけた。そこから小人が侵入し、襲撃を受けたけどリゼナは無事。二体の小人を本に封じ込め、残りの小人は一体。結界の穴は修復中だけど、もうじき終わるよ」
「先ほど城内で怪しい男を捕えました」
リムに続いてセスナが報告する。
「男? 魔法使いか?」
「いえ。結界破りの魔法具を所持しておりましたので拘束はしてありますが、魔術師ではないようです」
アルノーアの問いに、セスナは速やかに答えた。
「これからその男に話を聞く」
アルノーアの言葉にセスナは大きく頷く。
こんな大それたことを企むぐらいだから、逃走準備も念入りにしているのだろうと思っていたリムはあまりにも呆気ない男の末路に肩を落とす。
しかし、これで面倒事が一つ減ると思えば悪くない。
リムはアルノーアと共に男が拘束されている地下へ移動することになり、セスナと他部隊は城内と城周辺の警護に回ることになった。
捕らえた男が魔女狩り事件に関わっているのか、それとも全く無関係なのか分からい状況で警戒を緩めることはできない。
地下室へ行くと、魔力封じの手錠をかけられた男が尋問されていた。
「何か吐いた?」
リムの言葉に、緊張気味の隊員は首を横に振る。
「だから! 俺じゃない! 俺は女にこれを持っていてくれと言われて、待っていただけだ!」
男は事務官の一人で職場の同僚達と共にパーティーに参加していたらしい。
机の上に置かれているのは白い石の嵌まったブローチだ。
ブローチには魔力が宿り、魔道具であるのは一目瞭然だった。
「女の名前は?」
「わ……分からない……」
アルノーアの問いに、男は言葉を濁す。
額には玉の汗が浮かび、顔面は蒼白で、今にも泣きそうな顔をしていた。
「だけど、仕事中に見たことがある! たぶん、どこかの課の職員だ! 露出の多い黒いドレスで髪を上げていて……えっと、顔が良かった。スタイルも良くて、男に囲まれて目立っていたから他の連中も見てる! 嘘じゃないっ!」
男は必死に訴えた。
「その女にこれを持たされたと?」
「そうです……話しかけられて、楽しくて……もう少し話したいと言ったら用事を済ませてすぐに戻るからこれを私だと思って待っていてと言われて…………」
男は青白い顔で拘束される直前の出来事について語った。
女にまんまと乗せられて犯人に仕立て上げられたということらしい。
「その証言を信じる材料が足りない」
「本当です! 信じて下さい!」
アルノーアの冷たい言葉に男は涙ぐむ。
「概ね信じて良いかもしれない。僕はこの男が話した女に心当たりがある」
「そうなのか?」
「うん。僕に絡んできたから追い払った」
「そ、そういえば……ついさっき誰かにこっぴどく振られたって……だから慰めて欲しいって俺に…………」
男とアルノーア、それから尋問していた隊員の視線がリムに向けられる。
その視線が何故か憎々しいと言わんばかりなのはどうしてかさっぱりりかいできない。
「すぐにエカテリーナ・ニルを拘束するように指示を……」
リムが言い切る前にバタバタと階段を降りてくる足音が聞こえてくる。
そして地下室に飛び込んできたのはセスナの部下だ。
「失礼致します! 団長! ヴァイオレット隊長!」
息を切らして肩を大きく上下させた隊員は大きく息を吸って口を開いた。
「申し上げます! リゼナ・アッシュフォード様が何者かに拉致されました!」




