夜会の終わり
「今回はどんな内容に書き換えたんだい?」
リムはズタボロになった部屋を見渡し、危険はないことを確認した後、リゼナに問い掛けた。
城の中でリムの能力は使えない。
剣一本で小人の相手をするとなれば、部屋がボロボロになるのは致し方ないことだと思っているので修繕費に関しては騎士団から下りるだろう。
この短時間に小人を二体も本に引き摺り戻すことができたのは僥倖だった。
それはリゼナの能力の高さにある。
彼女の能力の高さには驚かされることが多い。
「今回はニノとゴルを恋愛関係に置くことで魔女狩りを止める方向で書き換えました」
「………………」
リゼナは本と万年筆を手に得意げに言う。
リムがどんな顔をしているかなんて気付いていないだろう。
「白雪のために魔女狩りを始めたニノと白雪に特別な感情なないけど、ニノがいるからただ何となく魔女狩りをしているゴル。けれどゴルの中には常に罪悪感が付き纏うのです。『こんなことをして、何のためになるのか』と。本当はニノにこれは正しいことなのかと口にしたい。けれど、白雪のためだと張り切るニノにゴルは」
「うん、分かった。また今度時間がある時に聞くことにするよ」
リムはまだ話足りなそうな顔をするリゼナにやんわりと言う。
この子は本を読むだけじゃなくて、書く方も才能あるんじゃないだろうかと脳裏を過るがそれは口にしなかった。
「隊長は怪我はありませんか?」
「怪我があるように見える?」
腕を広げて傷がないことを見せる。
「私は目が悪いので」
心配して言っているのに、そういう言い方はなんだと、リゼナの目が語っている。
「とりあえず、場所を移そうか。ここは風通しが良すぎるからね」
リムの言葉にリゼナは視線を窓があった方へ移す。
窓があった場所にはガラスもなければ窓枠も壁もなく、すぐに城外へと出れる状態になってしまった。
「そうですね。少し寒いです」
二の腕を擦るリゼナの肩に脱いだ上着をかける。
ぽかんっとした顔のリゼナが面白い。
「着てたら? すぐに帰りたいけど、帰れないかもしれない」
「結界に穴を開けた人を見つけなきゃならないからですよね?」
リゼナの問いにリムは頷く。
「城の結界が破られるなんてゆゆしき事態だからね」
一体、どこの誰がこんな真似をしたのか興味がある。
国王の居住する王城への攻撃は即打ち首だ。
それに久しぶりに気持ちが安らぐひと時だったというのに、ささやかなその時間をぶち壊しにしてくれた報いは受けるべきだ。
どんな馬鹿か顔を見るのが楽しみだな。
リムの楽しそうな表情にリゼナは怪訝そうな顔をしているが気にしない。
「僕はこのまま他の隊と合流するけど……」
だけど、彼女を連れ回すのは無理がある。
汚れたままドレスに、慣れないヒール、何より人の目に触れるのが何だか嫌だ。
「適当な部屋を借りるから、君はそこで休んでて」
「でも……」
「結界に穴が開いた場所は時期に修復される。結界が張り直されれば城内は安全だからね。君も疲れたでしょ」
突然この事件に協力することになった彼女は肉体的にも精神的にも疲れているはずだ。
夜も大して眠れなかった上に、早朝から夜会の準備で忙しかっただろう。
「少し休むといい。部下を見張りに付ける」
リムは身体を横にしても大丈夫そうな長椅子のある部屋を選び、リゼナを部屋へ案内した。
「くれぐれも施錠はしてよ」
「分かってます。誰かさんみたいに合い鍵を持ち出さなければ問題ありませんよ」
昨夜のことを根に持っているらしいリゼナはムッとした表情で言う。
「用があれば彼らに言って」
リムは部屋の見張りについた部下二人を指す。
「分かりました」
そう言って扉を閉め、施錠されたことを確認する。
「頼んだよ」
「「は」」
部下二人に扉を任せてリムは廊下を進み、目的の場所へ向かった。




