落ち着かない
騎士団長を先頭に小隊長達に国王ジオルドの前に跪く。
いつもの騎士服ではなく、各々自由な夜会服を着ているため、傍から見れば何の集団なのか分からないかもしれない。
小隊長が並んだ列の一番端にリムはいた。
無礼講だというのなら、こういう形だけの挨拶も省略すればいいのに。
リムは常々そう思っていたが、今夜は特に面倒に感じる。
早くリゼナの元に戻らなければと思うのは、自分で着飾った彼女が思った以上に完成度が高いからかもしれない。
手入れをした波打つ黒髪は艶やかで、リムの要望通り、降ろされていた。
前髪を上げて形のいい額をだし、白と青のヘッドドレスで飾ってある。
額を出したら少しだけ幼く見えるのも意外だった。
ネイビーブルーのドレスにリゼナの白い肌は良く映えた。
小さく整った顔立ち、睫毛は長く、通った鼻筋に熟れたプラムのような唇には紅が引かれてあどけなさの中に男を誘うような色香が見える。
仕上がりに文句はない。
あの顔の輪郭を歪にする分厚い眼鏡さえ外してしまえば、素材はいいのだから、これくらいは当然だ。
普段はすれ違ってもリゼナに見向きもしない奴らも、彼女を批難した職場の奴らも面白いぐらいリゼナに視線を奪われている。
光る原石を見つけたのは僕。
宝石の価値も分からず、踏みつけにしようとした君達に彼女に近づく権利はない。
そう思うと何とも言えない優越感が込み上げてくる。
心の中でリムはほくそ笑んだ。
ただ気に入らないのはまるで星の煌めきを夜ごと纏ったかのような美しさに男共の視線が集まり過ぎることだ。
近くにいるとあまり分からないのだが、離れてみると彼女はなかなかスタイルがいい。
華奢なのだが、メリハリがある体つきが男の欲を掻き立てるらしく、遠目で彼女を見つめる者も多い。
そんな男達が視界に入る度に苛立ちが募り、落ち着かない気分になる。
この後の予定なんて大したことないし、彼女を連れてさっさと帰ろうかな。
そう考え、国王への挨拶を済ませて、そそくさとその場を離れた。
背後でアルノーアとセスナが呼び止める声が聞こえるが聞こえないフリをしてそのまま歩いた。
おかしな奴らに絡まれていないといいけど。
男に囲まれているリゼナを想像すると自然に歩調が早まる。
ふと、嫌いな香水の匂いが鼻孔を刺激し、眉を顰めた時だ。
「あの、待ってください」
背中に声が掛かり、振り向くとそこには黒いドレスを着た女がねっとりとした視線を向けていて、不快感が込み上がってくる。
昨日、リゼナを貶めようとした香水臭い女だ。
「君…………」
「昨日お会いしました。覚えて下さっていたんですね」
男に媚びを売ることに慣れているようで、自分にもそれが通用すると思っていることが滑稽だった。
「………………離してくれる?」
掴まれた腕が腐り落ちそうだと思った。
埃を払うように、自分に引っ付こうとする手を払い除ける。
「君、誰? 何か用?」
リムはわざとそう言った。
名前は知っている。調べたからだ。
だけど、敢えて『君に興味はない』ということを強調するためだ。
「え……その、昨日お会いしましたよね?」
彼女から戸惑いの色が見えた。
今までの男はこれで通用していたんだろうと思う。
自分の持っている女の武器を最大限利用し、随分と男を食い物にしてきたようだ。
「昨日……あぁ……事務課の」
だけど、僕には通じない。
それに僕は気に入らない奴は念入りに調べる質だからね。
君がリゼナに与えた苦痛に対しては対価を払ってもらいたいって思ってたから、今この場で出会えたのは幸運だったかもしれない。
「給料泥棒だね」
「…………え?」




