遊び心
ミオーナはヒールを鳴らしながら会場を横切る。
ミオーナの姿を見止め、慌ててやってきたのはミオーナの護衛だ。
「ごめんなさい、ちょっと空気を吸いに」
断りなくこの場を離れたことを謝り、ジオルドへ視線を向ける。
玉座に座った若き王は心優しく、思いやりを持って接してくれる。
柔和な顔立ちがその優しい性格を表していた。
ジオルドからの愛は心地よい。
だけど、ミオーナには少し物足りなかった。
普段は冷たい綺麗な男に情熱的に愛されてみたかった。
視線の先にいるのは国王ですら扱いに慎重さを有する危険な魔法使い、リム・ヴァイオレットだ。
情熱的に愛されるなら、彼のような男がいい。
自分の容姿にも魔女としての能力にも自信があったが、彼はミオーナに興味も関心も示さなかった。
けれど魔女が嫌いだと噂の男だから仕方ないと思ってた。
それなのに、千里眼で見えたのは仲睦まじいリムとリゼナの二人。
だから少しだけ意地悪をしたのよ。
事件の情報を不調と偽って小出しにした。
毎日リムが足繁く通ってくれるように。
だけど、それも恐らく見抜かれていたのね。
あの冷たい視線はミオーナの思惑を見抜いていたのだろう。
リムは自力でリゼナに辿り着いた。
リゼナを通して見た光景はリゼナが自身の目を命を懸けてリムを庇う場面だった。
ミオーナはリムのために自分の目や命を犠牲にすることはできない。
無理に決まっているわ、そんな真似。
どうあがいても、彼女には敵わないのだと吹っ切れた。
だけど、やっぱり悔しくて少しだけ意地悪をした。
万が一のことを考えてリゼナには見張りをつけてあるけど。
「あなたのそのすかした顔が崩れる姿がみれるかしらね」
誰にも聞こえないようにミオーナは呟いた。
*********
ミオーナと別れたリゼナはぼんやりと壁にもたれかかった。
リムは魔女が嫌いなのかしら……。
祖母が犯罪者だから同じ魔女が全て嫌いだなんてそんなことはないと思うが、ミオーナの言葉を否定できるほどリゼナはリムのことを知らない。
そもそも彼と出会ってまだ二日しか経っていないのだから当然だ。
彼はどんな人が好きなのかしら。
ミオーナのように華やかな美人か、肉感のある妖艶な美女か、淑やかなご令嬢か……。
そもそも恋人はいるのだろうか。
それも謎だ。
「お飲み物は如何ですか?」
一人でぼんやりしているリゼナに給仕が飲み物を並べたトレーを持って歩いてくる。
その時、ミオーナが今日の赤ワインは美味しいと言っていたことを思い出す。
普段はあまりお酒は飲まない。
お酒を飲むとすぐに眠くなるので本を読む時間が減るからだ。
でも、今日は何だか飲みたい気分だ。
飲んで気分転換しようと思い、赤ワインを指さす。
「赤ワインをお願いします」
すると給仕は目を丸くして驚く。
「赤……で、よろしいのですか?」
「はい」
戸惑った様子の給仕に、リゼナは首を傾げる。
何かおかしなことを言ったかしら?
「承知しました。どうぞ」
赤ワインをリゼナに渡した給仕は一礼して、離れて行く。
リゼナはグラスに注がれた赤ワインを見つめ、香りを嗅ぐ。
「ルペネ産の赤ワイン……ルネだわ。流石に年代までは分からないわね」
ルペネ地方で作られたワインは他のワインと違って爽やかな香りとさっぱりとして深い味わいが特徴だ。
専門家ではないので年代までは分からないが、上質はワインであることに間違いない。
ミオーナが絶賛するぐらいだから、いいワインなのだろう。
リゼナは一口、ワインを煽る。
「深みがある……ちょっと私には強いかも」
だけど今日はいくらでも飲みたい気分だわ。
口当たりの良いワインはよく喉を通り、あっと言う間になくなってしまう。
近くにいた給仕を捕まえて、同じ赤ワインを受け取るが、すぐに空になってしまった。
もう一杯飲みたいわ。
また通りすがりの給仕に同じものを頼み、受け取る。
「美味しいわね……それにしても……」
リゼナはミオーナとの会話を思い出し、胸の奥がムカムカした。
自分はリムと親密な仲だと案に言われ、胸が苦しくなる。
「何で私がこんなモヤモヤした気分にならなきゃならないのよ」
リゼナは波打つグ…ラスに向かって呟く。
ミオーナの心がどこにあろうと、リムがミオーナと親密であっても、魔女がきらいであろうとも、自分には関係ないことだ。
関係ないのに…………。
「何でこんなに気になるのかしら……?」
リゼナはポツリと呟く。
呟きを飲み込むように赤いグラスが揺れる。
「忘れよう」
リゼナはまた一口、ワインを喉に落とす。
何だかぼーっとする……。
いつの間にかワインが回っていたらしい。
身体が温かくなり、ふわふわとした心地になる。
「何を忘れたいんですか?」
「何かお悩みでも?」
「向こうで一緒に飲みませんか?」
「私で良ければお聞きしますよ」
突然、いくつもの声がかけられリゼナは顔を上げる。
気付けばそこには見知らぬ男性の顔がズラリと並んでいたのである。




