治療
「お前が負傷するなんて珍しいじゃないか、リム」
「さっきからうるさいんだけど」
アルノーアの言葉にリムは短く返した。
こんな風に派手に負傷するのは自分でもらしくないとは思っている。
部屋に現れた小人達はリムには目もくれず、リゼナを狙った。
寝ている彼女を起こせば良かったかもしれないが、起こした所で彼女に出来ることは何もない。
頭を庇って丸まっていることぐらいだ。
アイマスクを外してしまえば、魔法薬の十分な効果を得ることができず、夜会には眼鏡で出席しなければならない。
そう思うとあれだけ時間をかけて吟味したドレスが無駄になる気がするし、彼女には最高の状態で着飾って、あの香水臭い女と彼女を批難した男達の鼻を明かしてやりたかった。
これは自己満足なわけで、自分の自己満足のためにリゼナを危険に晒すのだから、彼女の負担にならないように配慮するのは当然のことだ。
だからリムはリゼナが怖い思いをしなくて済むように起こそうとは思わなかったし、一人で片付けるつもりでいた。
しかし、あの小人は強い。
リゼナを守りながら、それも起こさないように戦うのはかなり面倒だった。
それなのに、小人達は容赦なくリゼナを狙う。
一瞬の隙を突かれ、目を負傷してしまった。
リゼナが目を覚ましたのはその直後だ。
すぐにアイマスクを取ろうとする彼女を『失明するよ』と脅したのはマスクを外すと全てが無駄になるからで他に理由はなかった。
本が好きな彼女は絶対に取らない、そう確信していた。
目が見えない状態で彼女にできることはない。
僕の後ろに隠れていればいい、それしかできないのだから。
そう思い込んでいたのに、リムは良い意味で裏切られた。
だって、まさか目が見えない状態で開いた本が何ページか分かるなんて思わないじゃない。
本の内容や何ページに何が書いてあるかを把握していると言われた時も驚いたが、目を閉じた状態でもそれが分かるなんて普通は有り得ない。
リゼナは目隠しをした状態で本を開き、ペンを執り、複雑な本の内容を書き換えたのだ。本の書き換えは何ページにも及ぶ。
そして今回、本に閉じ込めた小人達は双子だった。
同じ斧を持つ、双子の小人だ。だが、どちらがミノンで、どちらがシノンかの判別は難しい。
しかし、それを考慮した上で二体同時に本へ連れ戻す機転の良さも褒めたいところだ。
こうして人間離れした芸当を見せられ、リゼナ・アッシュフォードと言う人物を見くびっていたことに気付かされた。
それだけじゃなく、リゼナは失明してまでも自分をあの場から逃がそうとした。
祖母と母が魔女狩りによって死亡したことは知っていた。
家族の死はリゼナの心に大きな影を落としていることは事務課での騒ぎで何となく想像ができていたし、そういう人間は人の死に敏感になりやすい。だけど命と引き換えにしても自分を助けようとするとは思わず、リムは驚いた。
彼女は自分のせいで人が傷付くところは見たくないらしい。
涙ながらに心の内を吐露するリゼナを思い出すと、何だが胸が苦しくなる。
大した力もないくせに自分を助けようとする愚かさや無謀さには苛立つのに、自分にはもっとその愚かさや無謀なところを見せて欲しいと思ってしまう。
自らを投げうって自分を助けようとするリゼナは見ていて面白い。
だからだろうか、他の奴らの視線が彼女に向かうのが腹立たしいと思うのは。
頭からシーツを被せて蓑虫にしてみたり、自分の羽織を被せれば、少しばかりだが腹立たしさも収まった気がする。
だけど、シーツや羽織じゃ足りなかった。
アルノーアや騎士達はリゼナをチラチラ見ているし、セスナに関しては全く目を逸らさない。
「彼の目……潰そうかな」
リムはボソッと呟くと、隣にいたアルノーアは物騒なリムの一言にぎょっとする。
リゼナを見つめるあの目が気に入らない。
「おい、それは誰の目のことだ? 俺じゃないよな?」
「儂でもないよな?」
リムが横たわるベッドの側に置かれた椅子に座るアルノーアと薬を用意して治療の準備をしていたアドモンドが訊ねる。
しかし、二人の声はリムには届いていなかった。




