侵入者
スー、スーっと規則正しい呼吸音が聞こえ、リムは溜息を零す。
本当に寝たよ、この子。
ついさっきまで不満そうな視線を自分に向けていたのに、アイマスクをして横になればすぐに寝息が聞こえてきて、彼女の危機管理能力のなさに呆れてしまう。
リムはリゼナの寝顔をまじまじと見つめた。
目元は黒いアイマスクで覆われていて表情は見えない。
こんな状況でも眠れるということは相当疲れているのだろう。
「僕の部屋に呼べば良かったかな」
自分の寝室であれば結界が張ってあるので、小人達の脅威に怯える必要はない。
しかし、この子が素直に応じるとは限らない。
警戒心の強そうな彼女のことだから、リムの寝室では気を張って休めないだろうと思い、寝入ったであろう時間帯を見計らってこの部屋を訪れたのだ。
何もないまま朝を迎えることができれば、静かに部屋を出て行けばいい。
そうすれば彼女は自分が同じ部屋にいたことに気付かないままゆっくり休めただろうに。
リムなりの気遣いのつもりだったのだが、起きていたのは予想外だった。
食事に睡眠薬でも盛っておくことも考えたが、それはしなかった。
事実を知った時、彼女は凄く怒りそうな気がしたし、それを想像したら面倒に思ったからだ。
「だけど、こんなにスヤスヤ寝れるなら気を遣うまでもなかったかな?」
リムは寝ているリゼナに小さな声で囁く。
返事はなく聞こえてくるのは規則正しい寝息だけだ。
胸元が浅く上下し、心地よさそうで、見ているとこちらも眠くなる。
リムは白いシーツの上に散ったリゼナの黒く長い髪を一房、優しく手に取る。
三つ編みを解けば真っすぐかと思った黒髪は緩やかに波打つウェーブで、腰よりも長い。
一房、戯れで口付けるとふわりと香ってくる甘い匂いに胸がむず痒くなり、リムは眉を顰めた。
今まで感じたことのない違和感は胸の奥から発せられ、心臓に近い部分が疼く。
つーっと指の腹でリゼナの桜色の頬を撫でると、余計に胸が疼いた。
「んっ…………」
リゼナが頬のくすぐったさに身じろぎするが、覚醒の気配はないことにリムは安堵する。
「君って何だか、不思議なんだよね」
他人と関わるのは嫌いだ。
女は特に面倒だし、鬱陶しい。
だけど、リゼナにはその嫌悪感を覚えない。
上手く言えないが、今まで見てきた女達とは色々と違う。
だから少しだけ気になるのかもしれない。
「おやすみ、リゼナ」
リムは眠るリゼナに言うと、自分も毛布に包まる。
*********
目を閉じてしばらくすると、異質な気配にリムは目を覚まし、身体を起こした。
まだ外は暗く、窓からは月明りが差し込み、床を明るくてらしていて、まだ朝は来ない。
隣ではリゼナがスヤスヤと寝息を立てていて、覚醒の気配はない。
リムは音を立てないようにベッドから抜け出し、剣を手にした。
「不法侵入だよ」
リムは暗闇に潜む侵入者達を睨みつける。
この事態にも気付かず、すやすやと寝入るリゼナの呼吸音が静かに響いている。
何となく、この穏やかな音が止んでしまうのは不愉快だ。
「消えてくれるかな? 客人が寝てるからね」
そう言ってリムは剣を引き抜き、闇の中で蠢く複数の影に向かって静かに床を蹴った。




