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同じベッドで

「それで、何の御用ですか?」


 リゼナはベッドの上で枕を抱き締めて正座をしたまま、無遠慮にベッドに腰を降ろしたリムを睨みつける。


 本当に信じられない。

 女性の部屋に、それも鍵の掛かった部屋に合い鍵を使ってまで入ってくるなんて。


 リゼナは夜着に薄手のガウンを羽織っただけの格好で決して人前に出れるような服装ではない。

 リムもゆったりとしたスラックスにシャツを着て薄い羽織物を肩にかけているだけの格好で手には剣を持っている。


 剣を持っていることが怖いし、夜に女性の部屋に入る意味が分からない人じゃないだろうに。


 リゼナは目でリムを批難する。


「これから点眼しなきゃならないでしょ。点眼したら五時間は目を開けられない」


 病院から処方された点眼薬は両目に薬を入れたら五時間は目を開けてはならず、もしも目を開けるとやり直さなくてはいけなくなる。


 点眼薬と一緒にアイマスクも渡されていたので今晩は点眼してそれをつけて就寝するつもりだ。


「もしもその間に襲われるようなことがあったら困るからね」


 襲われる、というのは小人達のことである。

 そこでリゼナは首を傾げた。


「あの、このお邸のお部屋は結界が張ってあるって……」


 執事が各部屋には魔力を阻む結界が施してあるので殺人小人に怯える心配はないとにこやかな顔で説明してくれた。


 結界が邸にではなく、各部屋施されているのは少し妙だとは思ったが、はっきりと執事はそう言っていた。


「あぁ、この部屋には張ってないよ」

「何故⁉」


 リゼナはまさかの一言に叫ぶように言った。

 

 ここ、客室よね⁉

 大事な客人が何か危険な目に遭ったらどうするのよ⁉


 普通であれば邸の主人の部屋の次に気を配る場所ではないのか。


「ここに泊まる客人は僕に歓迎される人だけじゃないからね」


 こわっ…………。


 リゼナは絶句する。

 歓迎していない者は邸の中でどうなろうと関係ないらしい。


「いやいや、私は⁉ 歓迎されていなくても、何かあったら困るのはそっちも同じでしょう⁉」


 自分がいなければ騎士団が頭を悩ませる魔女狩り事件は解決しないかもしれないのだから、もっと大事に扱って欲しい。


「だからこうやって来てあげたんじゃない。ほら、早く点眼して。これ着けて寝なよ」

 

 抗議の声を上げるリゼナを横にリムはごろりと横になって欠伸をする。


「え、まさかここで寝るつもりですか?」

「そうだけど?」

「そうだけど? じゃないんですけど?」

「僕の部屋がいい?」

「そういうことじゃありません!」


 リゼナは一応、未婚の女性だ。

 恋人でもない男性と同じ部屋で眠ることはできない。


「心配しなくていいよ。仮に君が裸でも指一本動かない自信がある」

「流石に酷すぎませんか⁉」


 遠回しに全く好みじゃないし、そんな対象に見れないと言われ、リゼナは自分で思った以上に傷付いた。


 これだけはっきりと言われてしまうと意識している自分が馬鹿みたいだわ。


 リゼナは大きな溜息をついて、離れたところにあるソファーに移動しようとした。


「まさかソファーで寝るつもり?」

「はい。ヴァイオレット隊長はこちらで寝て下さい」


 そう言うとリムは不思議そうに首を傾げる。


「君って珍品だね」

「ち、珍品⁉」

「僕が同衾するって言ったら大抵の女は喜ぶけど」


 なんて自信だ。

 これだけ顔が良くて地位も身分もあれば女性は声を掛けずとも寄ってきそうではあるけれども。


「私は自分が可愛いですし、長生きしたいので」


 リゼナは毅然と言い放つ。

 うっかり近づいて斬られては堪らないし、彼に想いを寄せる女性達に刺されたくもない。


 必要以上に関わり合いになりたくないのである。


 図書館でこの人に憧れていた、あの時間に戻りたい……。


 リゼナは切実にそう思った。


「とにかく、離れすぎないで。人間って眠いと頭も身体も動きが鈍るでしょ。気付いたら死んでるかもしれないし」

 

 リムはまた一つ、大きな欠伸をして言った。


「怖いこと言わないで下さいよ!」


 リゼナは覚悟を決めて涙目になりながらベッドに舞い戻り、毛布に包まった。


 


 未婚の女性に対する配慮をまるで感じない。

 自分が特別だなどとは思っていないが、あくまで今回は騎士団の協力者という立場なのだから、もう少し丁重に扱って頂きたい。


 リゼナは唇を噛み締めてのたうち回りたい衝動をぐっと堪える。


 くっ……恋人でもない男性と一緒のベッドで寝るなんて……!

 しかも、私のことなんて全く意識していない! 全くデリカシーのない人と!


 こんなことを考えている自分が嫌になる。

 相手は全くこちらを意識していないのに、ひたすらに悔しい気持ちになる。


 

 私、指一本すら動かないくらい魅力ないんだ……。


 先ほどリムに言われた言葉が蘇り、リゼナの心を抉った。


 リゼナのそんな心境など知らないリムは「早く点眼して、これつけて」などと言って就寝を促して来る。


リゼナは悔しさと悲しさを押し殺して、点眼を済ませてアイマスクを着用し、毛布を被り直した。

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