眼科にて
「費用についても君に請求するつもりはないから、心配しないでいいよ」
そう言ってつかつかと歩き、入り口から建物の中に入る。
外観から患者の入りはかなり良さそうに思えたが、入ってすぐに大きな水槽の中に高価な魚が悠々と泳いでいるのを見つけ、確信を持つ。
相当、儲かってるわね。
この国では入手が難しい高価な観賞魚が何匹も泳いでいる。
リゼナには金の塊が水に浸かっているように見えてしまった。
待合室の椅子も一つ一つが座り心地の良さそうな高級感を放ち、受付には超美人の女性が座っている。
受付の女性がにっこりと微笑んだ……かと思えば、リムの姿を見た途端に『ひいっ』と小さい悲鳴を上げて座っていた椅子を倒して奥の部屋に飛び込んでいってしまった。
まるで化け物でも見たかのような受付美人の反応にリゼナは何とも言えない気持ちになる。
ほどなくしてバタバタとこちらに走ってくる足音が聞こえてきて白衣を着た男性が診察室のドアから現れた。
まだ暑くない季節なのだが、尋常じゃないぐらい大量発汗している。
引き攣った笑顔は青白く、白衣を着た病人のようだ。
「やあ、院長。元気そうでなによりだよ」
どこが?
リゼナは心の中でリムに突っ込みを入れる。
「お久しぶりです! ヴァイオレット隊長! これも全て隊長のおかげでございます!」
リムが軽く挨拶をしたのに対して、院長と呼ばれた男性は腰が折れるんじゃないかと言うぐらい勢いよく頭を下げた。
その様子をリゼナは呆然を見つめていた。
弱味でも握られているのかしら……。
可哀想に……。
裏社会とも繋がっていると噂のあるリムだ。
弱味の一つや二つ、握っていてもおかしくなさそうである。
そう思うとリゼナは院長が気の毒に思えて同情したくなった。
「今日は院長に折り入って頼みがあってね」
「は……はいぃ……それは一体……どのようなご用件でございましょうか……」
リムが話を切り出すと院長は酷く覚えた様子で返事をする。
こういう場面、よく小説にあるわね。
凶悪犯と裏通りにある怪しい店の店主の絡みだ。
こういう時、大体店主は凶悪犯に無理強いされることになる。
「僕じゃなくて彼女なんだけど」
リムに背中を押されてリゼナは院長の前に出る。
「彼女の治療を頼みたいんだ」
分厚い眼鏡のレンズ越しに院長と目が合い、あからさまにほっとした表情の院長を見てリゼナは申し訳なくなり、苦笑いした。
「り、リゼナ・アッシュフォードと申します。この度は急に来てご迷惑をおかけします」
「そんなことで宜しければ! もちろん喜んでお受けいたしますとも!!」
院長は青かった顔に血色を取り戻し、感涙しながらリゼナの手を握る。
一体、院長は何をさせられると思っていたのだろうか。
というか、この隊長様は何でここまで院長に恐れられているのだろうか。
疑問は沢山浮かんでくるが聞かない方が賢明な気がしたのでリゼナは無言を貫く。
「ぜひぜひ! わたくしにお任せ下さい! 当院での最高最善の治療をお約束します!」
先ほどまで死にそうな顔をしていた院長は生き生きとした輝きを取り戻し、軽い足取りで『さあさあ! こちらへどうぞ!』と診療室へ招き入れてくれた。




