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意外性

「ありがとうございました」


 廊下を歩きながらリゼナは隣を歩くリムにお礼を述べる。

 

「僕、弱い奴って嫌いなんだよね」

「はい?」


 さっきのお礼から一体、どうしてそういう話になるのだろうか。


「びくびくしながら誰かの影に隠れる奴、自分の言いたいことを言わない奴、弱いくせに粋がってる奴、弱いくせに悪知恵だけは働く奴。総じて嫌いなんだ。イライラする」


「はぁ。そうですか」


 誰もがあなたの前であれば弱者ですし、強者も弱体化すると思いますけどね。

 

 リゼナは相槌を打ちながら心の中でそっと呟く。


「君もそうかと思ってたんだ。だけど、君って結構はっきりものを言うよね。見た目は凄くどんくさそうだし、人の影に隠れてコソコソしてそうな感じなのに」


「言うべきことは言わないと好きなことができないので」

 

 リゼナがそう言うとリムは少し驚いたような表情をする。


 リゼナの最優先事項は大好きな本を読むこと。

 そのために働いている。

 決して他人の仕事を変わってやるためではない。


 するとリムはふっと力を抜いたような笑みを浮かべる。

 

「あ……」


 いつものような人を嘲笑うかのような笑みや冷笑ではなく、何だか温かみのある微笑みだ。

 細められた瞳はどこか優し気で、柔らかな表情がリゼナの視線を奪う。


「何?」

「いえ。ただ、笑うとより素敵ですね」


 感想は素直に口から出てきた。

 表情がなくても作り物みたいに綺麗な顔だが、温かみのある今のような表情をしている方が魅力的だとリゼナは思う。


「……口説いてるの?」

「何でそうなるんです?」


 不思議そうに首を傾げるリゼナにリムは不可解だと言わんばかりに顔を顰める。


「あの、これからどこに行くんですか?」


 会話をしている間に建物から出て、王城の門まで来てしまった。

 

「行けば分かるよ」


 目の前に停まった馬車に乗り込んで辿り着いたのは王都で有名な眼科である。


「眼科?」


 大きな看板を掲げた眼科はリゼナも知っていた。

 魔法眼科医のいる眼科で、リゼナも一度はこの視力をどうにかできないものかと調べたことがる。


 ただ、費用の高さで諦めたので受診したことはない。

 一体、眼科に何の用事があるのだろうか。


 

「もしかして、目が悪いんですか? そんな感じには見えませんけど」


 眼鏡は似合いそうですけど、と付け加えるとリムは首を傾げる。

 首を傾げたいのはこちらのほうですけど、とは言えなかった。


「目が悪いのは君でしょ。その眼鏡だと明日困るから治療してもらうよ」

「目が悪いのは事実ですけど……明日困るって何が困るんですか? 明日、私が眼鏡をかけていると困る何かあるんですか?」


 私が眼鏡で困ることって何?

 

 眼鏡はもうリゼナの身体の一部同然で、切り離すことのできない存在だ。

 その眼鏡があると困る何かにリゼナは心当たりがない。


「明日は建国記念のパーティーがあるでしょ。君には僕のパートナーになってもらうから」


 リムの言葉にリゼナは頭が真っ白になる。


 聞き間違いかしら? 聞き間違いよね?


「僕は出席を義務付けられてるからね。君にも出席してもらう」


 小人はいつ現れるか分からない。

 故に仕事以外の時間はリムと共にいなければならない。


 そんなの聞いてないっーーー!


 リゼナは心の中で悲鳴にも似た叫び声を上げた。


「待って下さい、私、パーティーには欠席連絡してありますし、何も準備してません。着ていけるようなドレスも靴ももちろんありませんし、化粧の仕方は知識としてありますが道具がありません」


 妙齢の女性としてどうかと思うがリゼナは開き直って正直に打ち明ける。

 するとリムは楽しそうに口元に笑みを浮かべて言う。


「それは心配しないでいいよ。ほら、行くよ」


 そう言ってリムは入り口に向かって歩き出す。


「ちょ、ちょっと待ってください! ここは予約が必須です! それに、治療費はかなり高額なんです。私、払えませんよ」


 懐具合を打ち明けるのは少々恥ずかしいが、リゼナは素直に言う。

 請求されても払えないものは払えない。


「ここの院長は知り合いでね。融通が利くんだ」


 …………本当かしら?


 聞くに聞けないがリゼナはリムの言葉を訝しむ。



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